第97話 新人魔女と突然の婚約者(1)
新人魔女のリッカは、まだ外が暗いうちに起き出した。洗顔と歯磨きをすませて、朝食を取るため食堂へ向かう。
今日からは、これまで以上に仕事と魔法の勉強に精を出そう。そのためにも、朝食はしっかりと食べておかなくては。そんな事を思いながらリッカが食堂の扉を開けると、そこにはすでに先客がいた。
「おはよう。リッカ」
「おはようございます。お父様。どうされたのですか? 今日は随分とお早いのですね」
リッカが挨拶を返せば、リッカの父はむすりとしたまま、不機嫌そうに鼻を鳴らす。そして、リッカに向かってぶっきらぼうに言葉を返した。
「たまたま早く目が覚めたのだ」
そう告げると、父親は黙って朝食を食べ始める。いつもリッカと話す時はこんな態度だ。
「……そうでしたか」
リッカは苦笑いを浮かべて、それ以上は何も言わずに自身の席に座る。そして、朝食のスープを口にした。
食堂に母の姿はない。まだ寝ているのだろう。食事の間中ずっと沈黙が続く。聞こえるのは、スープを啜る音と、使用人が給仕をする際にたてる微かな物音くらいだ。
重苦しい空気の中、朝食を先に食べ終えた父だったが、なかなか席を立たない。いつもならば、そそくさと仕事へ出掛けてしまうのに。それどころか、今日は食後のコーヒーにも手をつけず、無言で席に着いたままだ。
何か言いたいことでもあるのだろうか。リッカはチラリと父に視線を向けた。すると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた父と目が合った。
「
ボソリと呟かれた言葉に、リッカは目を丸くする。なぜ急にそんな事を言うのか。驚きで言葉が出ないでいると、父の言葉が矢継ぎ早に続く。
「その様子からすると、まだ何も耳にしていないか……」
父の言葉の意味が分からず、リッカは不思議そうに首を傾げた。
「あの、一体なんのお話でしょうか?」
すると、父はますます苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるのだった。
「そうか……。まだ知らぬなら、私の口から言うわけにはいかぬ」
そう短く返事をすると、父は勢いよく立ち上がる。そして、そのまま食堂を後にした。バタンッと大きな音を立てて扉が閉まる。一人取り残されたリッカはポカンとしたまま、扉を見つめた。
「なんだったのかしら……」
そう呟いてみたものの、父の態度が意味する答えは全く分からない。結局リッカは、使用人に「出かける時間です」と言われるまで、父が出て行った扉を黙って見つめ続けるのだった。
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