第96話 新人魔女と使い魔の特訓(8)

 見た目は綺麗な箱庭でしかない。しかし、そこに凝縮された魔力の濃さは、普通の魔法使いには創り出せないほど濃いものだった。


 リッカは改めて大賢者であるリゼラルブの偉大さを実感した。それとともに、そんなリゼラルブに少しでも近づきたいとも思う。リッカは、箱庭をじっと見つめたまま決意を込めて拳を握るのだった。


 そんなリッカにグリムは、小さくため息を漏らす。そして、リッカに声をかけた。


「リゼラルブは特別や。あんたはあんたらしい魔法使いを目指せばええ」


 グリムの助言にリッカは、ハッと我に返る。確かにグリムの言う通りだ。リゼラルブは天才で特別なのだ。そんな彼を目指しても、その領域には到達できないだろう。


 リッカは、小さく唇を噛んだ後、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。


「そうですね。わたしでは到底リゼさんには敵いそうにありません。でも、少しでもリゼさんに近づけるようフェンとがんばります」


 主の言葉に、リッカの足下にいたフェンは嬉しそうに尻尾を揺らす。リッカはその小さな頭を優しく撫でた。リッカに頭を撫でられたフェンは、気持ち良さそうに目を細める。それから自信に満ちた声で告げた。


「僕、特訓頑張りますから。見ていてください、グリム様」


 新人二人のやる気に満ちた言葉に対して、グリムは気まずそうに片耳を搔く。「そうか」と小さく漏らすと、体に顔を埋め、そのまま寝息を立て始めたのだった。


 グリムの冷めた態度に、フェンの尻尾がシュンと垂れた。フェンの様子にリッカは苦笑いを浮かべる。リッカはフェンに優しく声をかけた。


「フェン、明日からも魔法の特訓頑張ろうね。グリムさんは、いつだってちゃんと見ていてくださるはずだから」


 リッカの言葉に、寝ているはずのグリムの耳がピクッと反応する。そんなグリムの様子に気づいたのか、フェンは顔を上げ、ワンと一声鳴いた。


 リッカはクスッと笑った。明日からは忙しくなりそうだ。日々の工房の仕事に加え、フェンの魔法の特訓が加わる。リッカは心の中で気合を入れ直した。


 フェンだけではない。リゼのような魔法使いを目指すのならば、自分自身の鍛錬も怠るわけにはいかない。薬作りに魔道具作成。魔力の強化もするべきだろうし、使い魔や使役獣についても、もっと知りたい。思いつくだけでも、勉強するべきことはいくらでもあった。


 これからまだまだやらねばならないことがたくさんある。リッカは気合いを入れるように、よしっと小さく呟いた。

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