第95話 新人魔女と使い魔の特訓(7)

 だからこそ、今日のグリムの特訓は効果があると考えていた。リッカは真剣な眼差しをグリムに向ける。フェンも主人に倣い、力強く頷く。そんな二人の視線を受け止めて、グリムは困ったように前足で耳の後ろを掻いた。


 確かに特訓には付き合ったが、それはあくまでもリゼラルブから託かったからだ。しかし、リッカたちは心底感謝しているようだ。グリムは、その視線に負け、「まぁ、なんでもいいか」と心の中でつぶやくと、仕方ないというように肩を竦めた。


 グリムは、まだ付き合いの浅いこの新人魔女たちのことを気に入り始めていた。リッカたちが望むなら、しばらくは付き合ってやるかーーと。


 グリムは、リッカの手の中にある赤い宝石にチラリと視線をやる。


「そいつ戻そか」


 グリムはそうリッカたちを促すと、スタスタと工房の入り口へ戻って行く。リッカはフェンと共にグリムの後に続いた。


 工房へ入るとグリムは、自身の寝床の所まで歩いて行き、そこで丸くなる。リッカはグリムに小さく声をかけた。


「グリムさん。この子はどうすればいいですか?」


 リッカは手に持った赤い宝石を、グリムに見せる。すると、グリムが面倒そうに答えた。


「あー……、そうやな。そこの窓際にある箱庭にでも入れとき」


 リッカはグリムに言われた通り、窓際に置かれた木箱に近づく。その中には、たくさんの植物が植えられた箱庭があった。小さな池のような場所や砂山なんかもある。そんな箱庭の中には、いくつかの宝石が置かれていた。リッカはそれらに倣い、赤い宝石を小さな草原のような空間にそっと置く。


 すると、置かれた赤い宝石が淡い光を放ち始めた。その光は、しばらく明滅を繰り返していたが、やがて光は徐々に小さくなっていき、そして完全に消えた。


 リッカは、光が完全に消えるのを確認すると、静かに箱庭のそばを離れた。


「あの箱庭は一体何ですか?」


 リッカの疑問にグリムが答える。


「それはそいつらの魔力回復の為の装置や」


 グリムによると、箱庭はリゼラルブが使役獣たちの為に作った特別な空間らしい。箱庭の中は地上の魔素とリゼラルブの魔力が凝縮された空間になっているという。


 使役獣は、宝石の中にいれば徐々に魔力が回復していくのだが、それでもすぐに完全に戻るわけではない。彼らの回復を早める為、リゼラルブは箱庭という使役獣たちのための特殊な回復装置を作成したのだそうだ。


 リッカは、グリムの説明を聞きながら、箱庭をまじまじと見つめた。

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