第4話 アリバイ
平野聡子の行方もそうなのだが、とにかく被害者が誰なのかということを突き止めるのが、先決であった。
しかし、死んでいた男は、身元を示すものは一切持っていなかった。死んでいた時の恰好も、アロハシャツにジーンズというような、まるで昭和の時代であれば、
「チンピラ」
という様相であった。
だから、そのいでたちから、いわゆる、
「街のチンピラ風情」
を中心に探すことになったのだが、該当するような人物は現れない。
「こんなにも、見つからないものか?」
と思うほどで、行方不明者の捜索願も漁ってみたが、そこにも該当者がいなかった。
「やはり、奥さんの線から探してみるしかないか」
ということで、奥さんの身元調べが行われたのだが、これがなかなかの、
「転落人生」
だったようだ。
この奥さんのキーワードとして、浮かんできたのが、
「ある新興宗教」
というのが絡んでいるということであった。
奥さんの借金というのが、どうやら、その宗教団体への寄付、いわゆる、
「お布施」
といわれる、
「上納金」
だったのだ。
この宗教団体は、ウワサがいろいろ飛び交っていて、他の宗教のように、一筋縄ではいかないようだった。
「奥さんのような人が入信するのに、男が巧みに近づいて、肉体的な寂しさを感じている女性や、一見社会的に満足しているような人の、心の隙をついて、関係を持つことで、入信させる」
というものだ。
「男による女に対しての色仕掛け」
が、やつらの手口だった。
寂しさや、満足感の中に密かなストレスを抱えているような女性は、えてして、自分の本当の気持ちを分かっていない。
「私は寂しいんだ」
あるいは、
「私は、満足しているつもりで本当はストレスを抱えているんだ」
という風に、女性は思っていないのだ。
しかも、奥さんともなると、世間体であったり、旦那の目というものがあることで、余計にその気持ちを隠そうとする。そうなると、教団による誘惑、つまりは、あてがわれた男による誘惑に、コロッと騙されるのだろう。
だから、この宗教団体の信者のほとんどは、女性である。
しかも、主婦が多いというのも、特徴で、団体のスタッフ側にはほとんど男しかおらず、もし女がいるとすれば、信者からの内部昇格ではないだろうか。
女の中には、想像以上にしたたかな女もいるようで、なかなか色仕掛けに乗ってこない女は、次第に教団のやり方に気が付いてくるのだった。
逆にそんな女の方が、今度は男に揺さぶりをかけてくる。教団としては、
「こういうやつは、騙される側ではなく、騙す方としての才能がある」
ということで、幹部として雇い入れているのだった。
この教団は、結構、犯罪もどきのことも裏でやっているようだった。
その代表例が、
「美人局」
であった。
少々金を持ってそうな、それでいて、騙されやすいような男を、信者となった奥さんが、今度は色仕掛けで、ホテルに連れ込む。
そこで男が現れて、
「お前、俺の女になにを?」
というわけだが、彼らのやり口は、巧妙なようだ。
美人局というのは、本当につまらない犯罪だ。
そんなにたくさん金がとれるわけでもないのに、失敗することも少なくない。ある意味、
「割に合わない犯罪」
といってもいいかも知れない。
だが、この教団は巧みであった。
美人局をやっても、決して。こちらの素性を明かすようなことをしない。
元々、女と、ヒモのようなチンピラ風情がやる、
「ちんけな犯罪」
なので。自分たちが、
「こんなにちんけな犯罪しかできないような、クズ」
であるということを自覚していないから、騙される人を、
「本当にバカな連中だ」
としか思っていない。
「バカがバカにしかける犯罪」
ということで、ある意味、どっちもどっちということだ。
そうなると、立場は圧倒的に被害者が不利ではあったが、せっかくの有利さを使うすべのない加害者側は、その頭の悪さと、クズであるがゆえに、結果としては、自滅のような形になり、別に相手の立場が悪いという中であるにも関わらず、
「犯罪が白昼の下に晒される」
ということになるのだった。
だから、普通の団体が、
「団体からっみ」
で行うようなことはないのだろうが、ここではそれをやっているのだった。
しかし、さすがに素人のようなへまはしない。
逆に、
「割に合わないという風味見えるからこそ、警察も相手も騙せるのだ」
と思っていた。
水面下で、やっていて、警察も、
「宗教団体が、まさか、いまさら美人局のような、そんなことをするわけはないだろう」
ということでタカをくくっていたのではないだろうか?
そして、もう一つ重要なことは、
「騙す相手に決して、自分たちのことを悟られてはいけない」
ということであった。
いわゆる、
「尻尾を出さない」
というのが大切なことであり、特に男の側は、その存在を
「世間に知られてはいけない」
ということであった。
もちろん、
「宗教団体の幹部になっている」
ということは、元々の家族には分かっていることだろうが、まさか、
「陰で美人局のような、ちんけな犯罪をやっている」
などとは思っていないだろう。
だから、それだけにこの団体の幹部は、一切表と接触することはない。やっているのは、
「寂しそうな主婦」
を物色し、自分が色仕掛けで、誘惑してくるということだった。
彼らは、
「善悪の見極めには疎く、本能だけで生きているような男で、悪知恵がはたらくような男であれば、それに超したことがない」
というのが、幹部にはふさわしいということであった。
さらに、そんな彼らは、女の身体に飽きるということはないようだった。
「もう、この女の身体に飽きた」
ということであれば、使い物にならないからだ。
「一人の女が信者として、自分はそれをつなぎとめる幹部として、二人三脚で、教団を支えている」
ということになるのだった。
そういう意味では、
「他にはない、歪な宗教団体である」
と言えるに違いない。
「こんな宗教団体、歪としかいいようがないではないか」
と、もし、その全容が分かれば、誰もが感じることであろう。
平野聡子は、宗教団体に入信していて、実は、以前に、
「美人局疑惑」
があった女だった。
しかし、ハッキリとした証拠があったわけではないので、あくまでも疑惑というだけで、捜査されたということも、警察で一部の人が知っているくらいで、表ざたには一切なっていなかった。
だが、この宗教団体に関しては、警察側もマークしているが、刑事課ではそんなことまで分からない。だから、この女が捜査線上に浮かんだことで、初めて、この団体が浮き彫りになったのだった。
ただ、平野聡子という女の、
「ペア」
となっている男が誰なのか?
ということは正直警察も分からなかった。
そこに行くまでに、彼女から捜査が外れてしまったので、結局闇から闇になっていたわけだが、
「もし、あの時、もっとちゃんと調べていれば分かったかも知れない」
ということであるが、今となっては、それを追うことはできない。
しかし、今回の捜査は、
「殺人事件」
である。
今のところの最重要容疑者が、この平野聡子だった。
何と言っても、行方不明となっていることが一番である。まずは、彼女の行方を追うことが先決だった。
マスゴミの発表として、
「駅前マンションの空き室で、男の死体が発見され、警察は男の身元の捜査と、その部屋の元住民である、行方不明となっている女性の行方を追っている」
というような、三面記事的な扱いであった。
事件としては、センセーショナルではあるが、あまりにも情報が少なすぎるので、報道のしようがないというのが、本音ではないだろうか?
ただ、この平野聡子の関係者ということで、かつて、
「美人局問題があった」
ということで、旧教団体を捜査していたところからの状況提供で、浮かんできたのが、加藤正明という男であった。
実際に、その情報を元に捜査していると、さすがに宗教団体も、
「殺人事件の捜査」
ということなので、むげに断ることもできず。
「できるだけの捜査に協力します」
ということになり、被害者の写真を見せ、
「加藤さんのようだ」
ということで、死体の検分を行ってもらうと、
「加藤さんです」
ということで、数日かかったが、やっと被害者の身元が分かったのだった。
だが、この男が過去にどのような人間だったのかということは、宗教団体の方にも分からなかった。
「おたくの幹部なんでしょう?」
ということであったが、
「我々は、その人が俗世でどういう人間だったのかということは、ほとんど感知していません」
というではないか。
逆にいえば、
「彼らにとって、利用できさえすれば、どういう人間かということは、関係ない。どうせ、自分たちが洗脳するのだから」
ということのようである。
実際に、宗教団体を見ていると、
「何だ、ここは?」
というような、
「歪な集団」
だった。
確かに、表とは隔絶された、ここよりも歪な旧教団体は存在した。
しかし、それは、昭和の昔だったりするのだが、そういう意味では、
「いまだにこんな団体が存在しているのか?」
というところであった。
表に出ている宗教団体の収入源は、細々と行っている内職をちょっとした販売ルートに乗せているというだけで、それは、別に犯罪ではなく、普通の団体維持のための、正当な行為であった。
しかし、それだけでとても、団体を維持などできるわけもない。
そこで表に出てきたことが、
「美人局疑惑」
であった。
ただ、それだけでも維持がでくるわけもなく、いろいろ調べられてきたところによると、
「男による色仕掛けで、女たちは、性風俗業界で、働いている」
という。
どちらかというと、こちらの方が主力の収入になっているようで、性風俗業界と、この団体とは、裏で繋がっていると言われている。
性風俗業界の方も、宗教団体も、お互いに、その関係が白日の下にさらされるというのは、困ったものだと思っていた。
性風俗業界も、
「キャストが宗教と関わっているなどということを客に知られると、店のイメージが悪くなって、集客に問題がある」
と思っていて、逆に宗教団体も、
「収入源を風俗だと思われて、変な捜査を受けると、裏でやっている美人局が警察に疑われ、団体の存続の危機になってしまう」
ということであった。
「だったら、美人局のようなことをやめればいい」
ということであったが、こちらは、実は、女性側が困ると言い出すだろう。
というのは、
「この美人局で得たお金の半分以上は、女の子の懐に入る」
ということであった。
この体制があるから、女の子も、風俗で働くことを容認し、その見返りとして、スタッフが、自分のしもべになるといういびつな関係が営まれている。
このような歪な関係の宗教団体であるが、その全容は警察にもつかめていない。
というのも、
「やっていることは、おおむね分かってきているのだが、この団体の目指す、最終目標が何にあるのかが、よくわからない」
ということである。
正直、この団体が、宗教団体であるということは分かっているのだが、何を目的にしたものなのかが分からない、
自分たちの宗教を広めて、
「皆さんを救いの道に導く」
というようなあからさまなことはまったく公表されていない。
教祖はいるにはいるが、その教祖が、何か教えのようなものを持っているのかというと、そういうわけではないという。
確かに、秘密が多く、おとんど、表には出てきていない団体であるが、それだけに、この団体の存在は、
「何か事件でも起こらなければ、大っぴらになることのない団体だ」
ということであった。
実際に、警察の宗教団体を取り締まる課でも、こんな団体があるとは思ってもみなかった。
これは、昔の話のようだが、昭和の時代の頃に、
「ほとんど、表に出てこない、謎の宗教団体というものがあった」
という。
その団体のことを、
「暗黒の団体」
と、警察は呼んでいた。
というのも、
「存在は確認できるのだが、実態がまったく見えてこない」
というものだったようだ。
しかも、別に悪事を働いているわけでもなく、かといって、何をやっているのかも謎だった。
まるで、
「その存在というものを、まったくかき消そうとするのが、その団体の存在意義だ」
とでもいうような、おかしなところであった。
そんな時、一人の刑事が、
「宇宙には、光を一切放たない暗黒の星があるということだが、あの団体はそういう組織なのかも知れないな」
といっていた。
つまり、
「光というのは、自らが光を発する恒星と、その光をうけて、反射させることで自分の存在を他の星に示すという、惑星、衛星のようなもので構成されているんだ」
ということであった。
ここまでは、誰もが求めることであった。
「だけど、宇宙には、光を発することはなく、光が当たっても、それを吸収してしまうという星が存在していると言われている」
という。
「それってどんな星なんだ?」
と聞くと、
「一言でいうと、邪悪な星だね。光を発しないから、近づいても分からない。その間に何をされるか分からない。暗黒に紛れて、その保護色で近づいてきて、相手を一瞬にして破壊する。そんな星だと思っていいんじゃないかな?」
というので、
「そんな恐ろしい星が、本当に存在するとは思えないけどな」
というと、
「だから、幻の星なのさ。実際にも存在しているかどうか分からないが、何となく気配のようなものを感じる。それって、この世界にだって、いくつも存在しているじゃないか。この我々の世界よりも、規模的にはあるかに大きい、予測不可能なことを、天文学的なという表現をするじゃないか、まさに、その想定外の広さがあるところなのだから、無数に存在するといってもいいんじゃないかな?」
というのであった。
「言われてみれば、一理ある。いや、それが当たり前というような気持ちだってあるではないか。
そんな不可思議な星が宇宙には無数に存在している。その話を疑わなかった老刑事も、今回の捜査本部の中には入っていた。
だから、その老刑事は、今回のこの宗教団体を、まさしく、その、
「暗黒の星」
をイメージしていたのだ。
そんな中において、浮かんできた今回の被害者として、
「ほぼ間違いない」
と言われた、
「加藤正明」
という男であるが、必死でその正体の把握を進めようとしていたが、なかなかその正体が分からなかった。
宗教団体からは、
「殺人事件の捜査ということなので、こちらも、協力します」
ということで、
「教団幹部、信者などへの聞き込みなどを制限することはしない」
ということであったは、どこまで信用していいのか分からないところもあった。
確かに、話が聴けるといっても、宗教団体が、
「いいよ」
といっても、個人個人がどう感じているかということである。
警察を快く思っていない人も多いだろう?
何しろ、宗教団体に関係しているような連中だ。俗世間の人たちとは隔絶していて、扱いにくいというのも分かる気がする。
しかし、刑事によっては、
「一番扱いにくいのは、今の俗世間の人間であり、さすが俗世間というだけの人がいて、人の性格など、その人間の数だけある」
と考えると、やってられないと思っている人も少なくないだろう。
そう、人の数だけあるのだから、その相手をする自分だって、同じレベルの人間でしかない。
一人で、たくさんの人間の相手をするのだから、大変なのは、もちろんのことである。
この加藤正明という男も、
「暗黒の星」
のような人物だったようだ。
しかし、捜査をしているうちに分かってきたのが、
「この男が、ずっと、平野聡子を自分の女としていて、洗脳していた相手だった」
ということがある程度、確定しているということであった。
「実際に行方不明になった時期と、死体の死亡推定の日時に、矛盾はない」
ということも分かってきた。
そして、鑑識の報告で、
「被害者の血液型と、ナイフに残っている血液型とが一致した」
ということは分かっている。
しかし、もう一つ不思議なことがあったようで、
「実は、あのナイフに付着していた血液なんですが、どうも、一つではないようなんです」
ということであった。
これには、一瞬、捜査本部も、
「ギョッ」
として、緊張が走ったが、
「ああ、複数といっても、もう一つの血液は、動物の血のようなんです。ネコかイヌかというところでしょうね」
というのであった。
「なんだ、人間じゃないのか?」
と、それを聞いた刑事はそう思ったのだが、だが、それならそれで、
「もう一つ謎が増えた」
ということであろう。
謎というのがどういうものなのか、容易に判明できるわけではないのだが、
「一つ一つ解決していけばいいのだろうが、何も解決しないうちに謎だけがどんどん明るみに出る」
ということで、
「事件はやはり厄介だ」
ということになるのだろうが、逆に、
「謎が多いということであれば、さらにこの謎がどんどん深まってきて、ある程度で切ってしまうまで待つしかないのかな?」
とも考えた。
なるべく、謎であっても、すべてが出てくると、その一つの謎を解決するパーツが、その他の謎の中に存在しているとすれば、
「まるで、ババ抜きをしているように、それぞれで相殺し合って消し合ってくれれば、最後に残ったジョーカーが、真実ではないか?」
と言えるような気がしてきたのだった。
確かに今表に出てきていることは、まったく謎を解決できるところまで至っていない。それを思うと、
「早くすべてのピースが出てきてくれるような捜査がまずは、先決なのではないだろうか?」
と言えるのだと思うのだった。
とりあえず、今出てきていることで繋がったのは、
「被害者である加藤正明と、部屋の住民で、行方不明となっている平野聡子との関係というくらいしかない」
ということであった。
しかし、それが分かれば、今度は、
「二人の関係」
ということで、いろいろなことが、芋づる式に発見されるかも知れないという思いもあったが、それは、若干、甘い観測ではないだろうか。
「却って、紐がこんがらがってくるかも知れないな」
という、ネガティブな発想になる捜査員もいた。
というのは、それだけ、この事件に、謎が多いということなのかも知れない。
そこへもってきて、もう一つの謎が増えた。
「動物の血が混じっている」
ということであった。
あのマンションは、動物飼育が不可だったこともあり、
「殺害現場が別である」
ということを証明しているといえるのではないだろうか?
ただ一つ、被害者と容疑者がハッキリしたということは、進展であろう。
容疑者が行方不明であっても、今度は、
「重要参考人」
として捜査できるのだから、少しは進展したといってもいいだろうか?
ただあくまでも、参考人であるから、プライバシーに抵触してはいけない。難しい捜査であることに変わりはないだろう。
ただ、ここにきて、もう一人の容疑者が浮かんできた。
それは、平野聡子の元旦那が交通事故で死んでいたということが分かったからだった。
元旦那ということは、聡子は離婚していた。その理由が、宗教団体への入信だったのかどうかは定かではないが、一応、まわりからはそのように言われているという。
聡子の宗教へののめり込みというのは、周りから見ていても、
「ヤバイ」
と思われるほどであったが、だからと言って、宗教への入信は、
「個人の自由」
である。
それを、友達くらいの立場で何とかできるわけでもないだろう。
簡単にそれができるくらいなら、とっくに旦那ができているといってもいいだろう。
ただ、一つ気になっている人もいた。
「彼女の宗教への入信を、旦那はそんなに嫌がっているわけではなかった」
という人もいたのだ。
何とその時、旦那にも女がいて、その女にかなり傾倒していたともいわれている。
逆に奥さんが、宗教にのめりこんでくれる方が、旦那にとっても、身動きがとりやすいという意味で、気が楽だったのかも知れない。
「お互いに好きなことができるのだから、何も離婚なんてする必要もないのに」
ということで、二人が離婚したということに、何かしらの疑念を感じていたということであった。
ただ、一つ、捜査が進んでいくうちに、分かってきたことがあった。
何と、男が殺されたと思われるその時、
「平野聡子は、どうやら、北海道にいた」
ということのようだ。
「一緒に旅行した」
という友達がいて、実際に、彼女と一緒に旅行した時、ちょうど彼女がひったくりに遭って、それを警察に届けていたことが、北海道警察に問い合わせたことでハッキリしている。
警察に被害届が提出されていることから、これ以上のアリバイはないということであるが、ただ、彼女と旅行をしたという人も、その前後の彼女の行方に関しては、一切知らなかったようだ。
「だって、会ったのも久しぶりのことで、一度以前にどこかのパーティで偶然一緒になったのが彼女だったんですよ、私たちは中学時代一緒だったので、懐かしくなって話をしているうちに、お互いに北海道に行きたいということになって、あれよあえよという間に決まったことだったんです。彼女は行動力のある人だったからですね」
と、彼女のことをまったく疑っている様子はないようだった。
彼女に聞き込みにはきたが、行方不明の状態なので、プライバシーは守らなければいけない。だから、事件のことは伏せての聞き込みになるので、突っ込んだ話はできないということになるのだった。
だが、このアリバイは、あまりにも都合のいいものであった。
しかし、それを無視しても、鉄壁なアリバイであることに変わりはなかった。
まさか、彼女をどんどん、
「容疑者に違いない」
という気持ちが高まってくる中での、この証言と、それを裏付ける、
「鉄壁のアリバイ」
捜査本部の落胆は、目に見えているようだった。
「まあ、しょうがないか」
と、切り替えが早かったのは、桜井刑事だった。
これまでにも、同じようなどんでん返しを食らったことは何度もあったはずだ。
それを思えば、
「これからの捜査を心が折れないままにやっていくしかないか?」
と考えながら、
「平野聡子が、どれだけ計算して動いているのか?」
ということが気になるところであった。
この期に及んで、
「まったく計画性のない」
ということはありえないということだといってもいいだろう。
確かに、
「鉄壁のアリバイ」
ではあるが、それだけに、ワザとらしさというのは、否めない。
逆にいえば、
「わざとらしくなければ、鉄壁のアリバイなどというのは、存在しないのではないだろうか?」
と言える気がする。
「人の意見に逆らいたくなる」
という人の考え方で物事を見るというのも、ある意味楽しいもので、
「殺人事件なのに、不謹慎な」
という人もいるかも知れないが、その考えが、
「事件解決に繋がるかも知れない」
と思っている意図もあるだろう。
そういう意味でいくと、事件が謎に包まれていることで、いろいろな想像ができるというものだ。
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