第28話 ホントに?


「なんならいっそ、私と?別に私、田島君となら全然平気だよ?」


「かっ、からかわないでくれよっ!俺は――そういう系の欲とかないし!!」


「ふぅん?ホントにぃ〜?」


「ホント!それに!仮にもあくるんは現役のアイドルでしょ?やすやすとそんな発言しちゃダメだって!」


「そっちはそっち。で、こっちはこっち。世界が違えば、立場とかは関係なしだよ?」


 だからって・・・!俺の身にもなってほしい。場所がどこであろうが、俺の中であくるんはあくるんのままなんだ。

 頼む・・・。それを打ち破らないでくれよ。


「立場は――雲泥の差だって」


「雲泥の差、かぁ・・・私はそうは思わないけどな。仮想現実では皆等しく平等だし。だって、田島君――?」


「どっ・・・!?」


 あくるんの言った、『ドーテー』が『童貞』だと脳内で変換されるまで少々時間がかかってしまった。

 意味が分かってからというもの、童貞という言葉がぐわんぐわんと何度も反芻する。


 そーですよ!

 まごうかたなき、童貞ですよ!俺は!


「はい。田島君の童貞はっかくー。かくてーい」


 と、あくるんはクスクス笑いながら俺を嘲る。


「お、おかしいかよ?まだ高校生だぞ?」


「ま、私も他人のこと言えた身分じゃなくて、なんだけど」


「しょじょ・・・」


 童貞と処女。これらふたつの単語からは非常に危ないニオイが漂う。いや、危ないっていうか、もう――ねぇ?


 俺の心は、絡み合った糸のようにぐるぐると掻き乱されていた。

 そもそも今俺の目の前にいるのは、間違いなくあくるん?別人の可能性すら抱いてしまいかねない。


「君は本当に、あくるんなの・・・?」


 つい、心の声が漏れてしまった。


「私を、推しを疑うの?」


「そういうわけじゃ・・・」


「信じる信じないは田島君の勝手だけどさ」


「もちろん――信じるよ」


「じゃあ田島君は今日をもって、純粋さを捨てる覚悟があるってことだね」


 その問いに俺は静かに頷いた。信じると言った手前、相応の覚悟も付き物だ。

 ここまできたら、やってやるっきゃねぇ。


「やる気みたいだね。で?お互いのはいつ敢行する?」


「俺が決めてもいいの」


「私はいつでも準備整ってるから」


 ――?


 やっぱり変だ。おかしい。おかしいおかしいおかしい。


「さん・・・」


「さん?」


「3ヶ月後。ダメ?」


「ずいぶん先だね。夏じゃん」


「うん、そう。夏」


「いいよ。待ってあげる」


 ありがとうと言い、俺は半ば強制的に、逃げるように仮想現実をログアウトした。


 現実に戻り、ゴーグルを外す。ぷはっと息が溢れた。目の前にはまだゴーグルを装着したままのあくるんの姿がある。


 そう。俺は決めたんだ。


 3ヶ月で、暴いてやると。


 あくるんの本性が判明したうえで、勝負に出ると。


 それに――やるなら『100%』のあくるんでいてもらわないとだからな!!

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