第27話 誘惑・・・(?)
「私たちの服装もそうだけど、周りもだいぶそれらしい雰囲気になったね。文豪の部屋って感じ出てる」
そう。俺たちは基本なんでもありの仮想現実で、空間――というか部屋――にまでこだわりを入れた。
木製の机、チェア、万年筆、座布団、畳、障子・・・などなど、大正浪漫を事細かく再現した。
「一応、俺たち名目上は、美術部なのにね。本来だったら絵を描くための部屋にしなきゃいけないところだったけど」
「ちっちゃいことは〜気にすんな〜。どうせ誰が見に来るってわけでもないんだから」
と、あくるんは一時期ブレイクしていた芸人のネタを身振り手振りマネし始めた。アレですよ。こう、脇を広げたり絞めたりする、アレ。
この手のネタはたしか・・・お笑いの世界には、ある程度流通している自負がある。だっておどけるための参考になるからな。
「えっ?あくるん?ちょっと古くない?」
「いーの。伝われば。なおかつ面白いし」
「はぁ」
つい間の抜けた返事になってしまった。根拠なしの台詞だな、今のは。
「美術部らしい活動もしておかないと、ふとした拍子に堀木先生が覗いてきたら、もしもの時に困るんじゃ」
「その可能性は限りなくゼロに等しいと思うけど、まぁやっといて損はないかもね」
「証拠だ。証拠を作っておこうよ」
「美術部としての証拠って言ったらやっぱり・・・」
「絵、しかないね。こんな作品描いてますっていう絵が一枚でもあれば違ってくると思う」
「ちなみに田島君はどんな絵を描きたいの?」
「え。描くの俺?」
「当ったり前じゃん」
「いやいやいやいや。言ったはずだよね?俺、絵は壊滅的だよって。あくるんにも入部する前に聞いたはずだけど・・・」
「さぁー?そんなこと言ったっけかなぁー?」
あくるんは頭の後ろで手を組み、そっぽを向いている。しらばっくれているのだと、あきらかに分かる態度だ。
「俺は——無理だよ。そもそも何を描くのかも決まってないし」
悪いがこの件は願い下げだ——そう言おうとした時、あくるんがニヤリと口角をくっと持ち上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、私が一肌脱ぐって言ったらどうする?」
あくるんが着物の襟の部分を掴み、肌をチラ見させようとしてきた。
――誘惑されてる。
その事実が分かるまで、たいして時間はかからなかった。
「ちょっ・・・な、えぇっ!?」
一肌脱ぐって、どこまでの意味?人によっては、色んな想像をさせる言葉なんですけど!?
「なーに?田島君ってば、ひょっとして今、変なこと考えてた?」
「まっ、まさか!!」
「やれやれ、勝手な妄想は困るなぁ。やっぱ田島君もちゃんと男子なんだねぇ」
「それこそ、勝手な妄想なんですけど・・・」
力なく俺は答えるしかなかった。
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