第23話 濃密って?


 放課後。


 美術室前に着いた。扉に手をかける。呼吸を整えるべく、入る前に深呼吸をした。俺の意志とはまるで無関係に鼓動は早まる。それからガラッという音とともに扉を開けると、あくるんはすでに待っていた。文庫本片手に、優雅に椅子に座っている。

 やがて俺の存在に気づくと「おっ、来たね」と言って顔を上げる。


「答えは出たかな?」


 ニヤリと笑うあくるん。小悪魔的な笑みだ。

 俺は黙って静かに頷く。


「じゃあ、聞かせてもらおうか」


「やるよ。腹はくくった」


「それは、私の理想実現のために一緒に奔走してくれる——って解釈していいのかな?」


「大丈夫。オッケー」


「ホントにぃ?言っとくけど、途中退室は厳禁だよ?」


「疑うの?」


「念には念を入れて。あとは、最終確認」


「だって、あくるんは俺が必要なんでしょ?」


 今の俺の問いかけが意外だったのか、あくるんは目を見開いた。


「そうきたか。昨日とは打って変わって強気な姿勢じゃん。なんかいいことでもあったの?」


「別に大したことは。ただほんのちょっと、仲の良い友達に助言をもらっただけ」


「田島君をここまで駆り立てるとは。その友達もなかなかやりますなぁ」


 ほめられているのか、けなされているのか分からない。あくるんにとって俺はどういう位置づけなんだ?まだまだあくるんには謎めいた部分が多すぎる。この辺は少しずつ俺の方でも解析していく必要があるな・・・


「高校から知り合って、付き合いの期間こそ浅いけど、いいやつなんだ。悪くは言わないでほしい」


 俺が妥協せずに済んだのは、歩がいてくれたからだ。まさしく『影』の功労者。友人のためならば、心身削って走ると誓います。いや、セリヌンティウスかよ。


「固い友情で結ばれてるんだねぇ。羨ましい限り。ま!私はいいけど!これからたーっぷり時間をかけて、田島君とのな仮想現実を過ごしていくんだから!!」


 ドキンと音がして、さらに脈打つ速度が加速した。

 いやいや、待てって・・・。濃密ってなんなんだよ、濃密って!!俺たち、そんなにじゃないってば⁉

 妄想が広がっていくたびに、心臓は暴れ狂う。もしや俺、デレてる感じ?


「あ、改めて、よ、よろしく」


 言いながらあくるんは、ウィンクをしてみせる。まつ毛も長いしまぶたもパッチリしてる目は、いつ見てもキレイだ。多分、5秒以上その瞳で見つめられたら、全身が痙攣してぶっ倒れかねない。

 ってあれ?これ似た感想、前にも言ったような。まぁいいや。


「うん。よろ。んじゃ、早いとこ入るよ」


 あくるんは俺に、仮想現実に入るためのゴーグルを投げてよこす。放物線を描きながら宙を舞うゴーグルを、両手で受け皿を作ってしっかりキャッチ。

 えぇ――・・・これ、落としたりしたらまずい系の物だよね?案外、扱い雑だな、おい。

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