第22話 ありがたい!


「とりあえず聞かせてみ?何が引っかかるのか」


「バッシングがどうしても気がかりで、な・・・」


「たいそう贅沢な悩みだなぁ、おい」


 言い返す言葉もない。歩の率直な意見ももっともだ。まぁ――そう思うのが普通の考え方だよな・・・。

 歩は今、俺が示した反応に対してどんな感情を抱いただろう。ふざけんな?調子乗るな?どちらにしても負や怒りを伴う感情だ。


 うつむく俺を、歩は両肩をがしっと掴んでから力強く言った。


「練一!!よく聞け!!」


「お、おぅ」


「あくるんに――応えてやれよ!!誠心誠意!!それでこそ男ってもんだろうが!!お前は数多いる野郎の中から、たったひとり選ばれたんだぞ!!」


 歩は目力いっぱいに、さらに息せき切って訴えてくる。圧を感じるし、掴まれた肩に指が食い込んできて痛いくらいだった。

 歩はまだ止まらない。


「ぼっちだろうがなんだろうが、お前はお前だ!田島練一だ!バッシングが怖い?あくるんと会って色々やるのは所詮、仮想現実での話!じゃない!割り切って練一は練一らしくいりゃーいい。で、あくるんにふさわしいと呼べる男を目指せってんだ!!」


 ——俺は。


 何を血迷ってたんだ。


 ひとりで被害妄想して。

 ひとりで悩みの種を作って。


 俺らしく。

 あくるんにふさわしい男。

 

 歩に言われた言葉がぐわんぐわんと反芻する。

 そして、その意味をしっかりと噛みしめた。


「歩。ありがとう」


「目が覚めたか?」


「あぁ。俺、なってみせるよ。あくるんの理想の男に」


「ようやくその気になりやがったか。おせーよ。喝を入れたこっちの身にもなってくれ」


「わり。けど、歩なら薄々分かってただろ?俺がしょっちゅう悩んじゃう性格だってのは」


「なんてったって、練一はガラスの心臓ハートの持ち主だからな。壊れないよーな、適度な刺激にしておかないと、すぐにポッキリ折れると思ってよ」


 ははっと笑いながら歩は答える。まごうことなき図星ではあるが、気持ち的に、心の中は温かみで満たされていた。

 俺のことをよく理解してくれてる友だぜ。ありがたい!!


「返事は一日待ってほしいって伝えてある。だからまた明日あくるんに俺の決意を表明するよ」


「明日になったらやっぱり怖くなりましたー、なんてやめろよ」


 せっかく喝を入れてもらったのに、縁起でもないこと言わないでくれる・・・。


 決意新たに迎えた翌日。


 朝起きてからずっと頭の中が悶々としていた。そのせいで授業に集中できないったらありゃしない。時折先生にも「田島!帰ってこーい?」と茶化され、教室中の笑いをさらう羽目にもなってしまった。


 だが闘志だけは消えずに灯り続けている。


 いまに見ていろ・・・。

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