第18話 知ってたよ?
あくるんに、ツッコミを入れられた。
オタク街道を走る者は、得意とするものの分野での負けを実感すると、それはそれはひどく悔しがる質でして。あー、一本取られた。
「逆にあくるんは何が好き?」
このまますごすごと引き下がれない。いくら相手があくるんであっても、だ。質問しつつ俺は意気込む。
「うーん。私は『津軽』かなぁ。あと『東京八景』とか。旅情誘われる、あの感じが惹かれる」
「あーね!奥深い系ね!」
なるほど。大いに頷ける。津軽にはまだ足を踏み入れたことがないけど、いつかは行ってみたいと思ってる。走れメロス号とかストーブ列車とかあるらしいし。車内でスルメ食べながらの読書。うん。妄想は膨らむぞ。
「私も『人間失格』は読んだけど、あれは衝撃受けたなぁ。こうまで心に深く刺さる小説があるのかって思った」
「でしょ?」
「だね。いかにも田島君が好きそうな小説。ま、フツーに知ってたけど」
――なに?俺は耳を疑った。
「知ってた、の?」
「うん。だって自己紹介を『人間失格』に似せて披露したんだよね?堀木先生に聞いた。それに誰かがすれ違いざまに言ってるの聞こえたんだ。自己紹介で一発かましたやつがいたって」
「あれは俺がバカだった。汚点だよ。お願いだから忘れてほしい」
堀木先生め・・・!!仮にも先生のくせに、どうして生徒を貶めるような真似をするんだ!!ゆるさん。
「そうはいかないよ。それより田島君、今、怒ってるでしょ。堀木先生に対して」
「うっ」
図星。いとも簡単に見破られて、反射的に半歩後ずさる。俺って単純明快なのかな・・・
「ダメだよ。すぐ人に反骨心を抱いちゃあ。むしろ田島君は堀木先生には感謝しなきゃだね」
「感謝?どうして?」
「田島君、私のこと好きなんでしょ?」
「――」
ドドドドッと複雑に絡み合った感情の波が、濁流のごとく勢いをもって押し寄せてきた。あくるんはためらいのない真っ直ぐな双眸を俺にぶつけてくる。目を合わせられなくて視線を右に左に泳がせていると、彼女はさらに追い打ちをかけてきた。
「私が推しなんでしょ?さっき、本当の姉だと思っていいよって言ってもらえて嬉しかったんでしょ?私の歌声やダンスが好きなんでしょ?自己紹介に私の写真使うくらいだもんね」
全てお見通し、か・・・。ボディーブローをくらった気分だ。それも強力な一撃じゃなくて、徐々に痛めつけてくるタイプ。これはこれで痛いやつ。
「おっしゃる通り、です・・・。俺は、あくるんを推してます・・・」
「よろしいよろしい。それでいーの」
どうやらあくるんは俺を屈服させたがっていたようだ。先が思いやられる。美術部ってもしや、地獄へ続く門扉だったりするのか・・・?いや、天国の間違いだよな・・・?そうであってくれ。
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