第17話 嗚呼!学校!(?)


「大丈夫。俺、アイドルその人がどんな性格でどんな趣味を持っていたとしても、絶対にそれを否定したりしないから」


「田島君は優しいね」


「そ、そうかな・・・」


「そうだよ。田島君は読書の経験をたくさん積んでるから、感受性が豊かなのかもしれないね」


「ほ、褒め過ぎだよ、あくるん。俺は好きだから読んでるだけ。歌と踊りに楽しさを感じているあくるんと一緒」


 褒め上手でもある、あくるん。照れる。今にも増してますます推したくなる。やっぱり天使(どうかまた言ってると思わないでください・・・)。オタクにはコミュ障も多い。光を与えてくれてありがとう。

 というか——まず、あくるんこと阿久津さんが同じ高校に在籍していた事実に加えて、本人もこの学校ならではの風習(?)にどっぷり浸かっていたとはなぁ・・・。トップアイドルをも魅了する太宰治。それからここ三鷹市。恐るべきや。


「いやいや。田島君の方こそ私を買いかぶり過ぎ。私、世間が思ってるほど大した器じゃないから」


 謙虚さの塊かよ。これがあるから、あくるんは多くのファンに愛されるんだ。もっとも本人には自覚がないみたいだけど――そういう風に装ってるなんてありえないし。みじめな俺とは違ってね。


「さてと!この話はもう終わり!で、なんの話してたっけ?ごめん、話逸れてたよね」


 パンッと手を叩き、あくるんは仕切り直そうとする。曇っていた表情から打って変わって、にこやかな笑顔に戻った。

 あの様子から見て察すると、あくるんはこの手の話は避けたいらしい。だったら俺もあくるんを思って引き下がろう。

 話を戻しましょう、話を。女神がお望みなのですから。


「あくるんが太宰治の作品に精通してたって話だったかな」


「あぁそうそう。田島君の勘の鋭さ?観察眼?に驚かされたんだった」


「生まれて初めて言われました・・・」


「謙遜しちゃってぇー。このあくるん様にはお見通しなのだぞ?」


「あくるんを前に、謙遜する余裕なんてないよ」


「はいはい。そういうことにしといてあげる。ねぇ?ベタな質問だけど、田島君は太宰治の作品でどれが一番好き?」


「『人間失格』」


 と、俺は即答した。


「返事はやっ」


「あれは俺にとっての究極の指南書でもあり、ふたつ目のでもあるから」


「田島君、間違ってる。日記じゃなく、だよ」


「あっ⁉」


「大事なとこですよー?読み込みが甘いんじゃないですかー?」


 ちっちっちっ、とあくるんは人差し指を左右に振る。

 指摘されても仕方ない。


 この場は、幼い頃の大庭葉蔵にならって、ひとり胸中で叫ぶとしよう。


 しかし、嗚呼!

 俺が『人間失格』に関して間違えるとは!凡ミス!失態!


 場所が学校という点だけは共通しているといえましょう。少々強引な気もしますが大目に見ていただきたいです・・・

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