第14話 重みが違います。
「あ、あくるん・・・?」
俺はおそるおそる聞いた。なんて表現したらいいのかな・・・強いて言うなら、今目の前にあくるんがいる事実を、信じたいけど信じられないって感じ。
人気絶頂のアイドルだぞ!?
初めて阿久津さんを見た瞬間、誰かに似てるって気はしてた!でもそれがあくるんだったなんて。
ちなみにこの時点をもって、俺の脳みそは考えることを完全に放棄したらしい。要は真っ白ってこと。
今やアイドルに関わらず誰かを推すのはほぼ当たり前になっている時代だ。けどいざ本人を前にしたら、体のあちこちが雪崩を起こしてもう会話どころじゃなくなる。最悪の場合、おどけてるの?と思われても仕方ない状態になる。
「うーん。やっぱりバレちゃったかぁ。一応、これでもちょっとは変装でごまかしてたつもりだったんだけどな。ま、でも阿久津って名前聞けば何となく予想できちゃうか」
「あ」
言われて理解する。なるほど。あくつ、るい——で、あくるん。
するとあくるんはかけていた黒縁のメガネを外し、後ろで縛っていたツインテールの髪をしゅるっと解いた。
——あぁ。
この姿こそ、あくるんだ。正真正銘の。
いつも表舞台で歌う時、髪は三つ編みにしてるけど、今みたいに髪をおろしているあくるんもまた、推せる。推しはどんな容姿になったとしても愛おしい。
「ねぇねぇ、田島君!なんですぐに私だって分かったの?決め手は?」
と、急にあくるんは勢いよく質問してきた。
「えっ⁉その・・・やっぱり声、でしょうか・・・?いや、話し方?あれ?それじゃどっちも一緒ですね・・・とにかく、色々込みで総合的に見てすぐに分かったというか・・・」
「・・・ふーん?」
あぁぁぁ!!あくるんに向かってなんてことを口走ってるんだぁ!!!
と、俺は心の中で絶叫と悶絶を繰り返す。
ちなみにあくるんはというと、俺を下から上目づかいでのぞき込んできている。うん。文句なしのかわいさ。しかも口元はアヒル口ときた。でもその前に恥ずかし過ぎて死にそう。なに、色々込みって。なに、総合的にって。お前何様?
「やっぱ、田島君って面白いね。誘った甲斐があった!それから私、言ったはずだよー。同い年なんだから堅苦しいのはなしにしようって」
「誘ったというのは——?」
耳を疑う台詞が飛び出したような。あくるんが?俺を?
「あれ?聞いてない?私が田島君は多分美術部に向いてると思うから、まずは誘ってみませんかって堀木先生に頼んだんだけど」
心臓が怖いくらいにバクバク鳴っている。だってそんな言葉聞いたら、誰しもが普通じゃいられなくなるって。分かりますかね。推しに言われたのですよ。推しに。直々に。重みがまるで違います。
心臓はうるささを感じる一方で、ぽかぽかとした温かさも併せ持っていた。
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