第13話 衝撃が待っていた。
「よろしくお願いします」
阿久津さんは最悪な俺の自己紹介に対しても、笑わずに丁寧な受け答えをしてくれた。彼女の優しさに感謝。
「阿久津、田島はまだまだ仮想現実に関しては初心者だ。悪いが慣れるまでの間、手取り足取り教えてやってくれるか」
堀木先生が頼むと、阿久津さんは「分かりました」と、ほほ笑みながら快諾する。
その顔を見て俺は一瞬、ドキッとしてしまった。
挨拶までを見届けた堀木先生は、あとは任せたとばかりに、俺たちふたりを残してさっさと美術室をあとにしていく。
――なに興奮してるんだ、俺ってやつは。
高鳴る心臓を感じながらそう思った。
あんな美人で清楚な人が、影の薄い代表格と成り果てた俺なんかに興味のカケラも示すはずがないだろ・・・
「田島君?改めてよろしくね」
「えっ、はい、よろしくお願い、します・・・」
ダメだ、思うように
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!
俺は自らの心にむち打って、全力で否定した。
「あの・・・大丈夫?」
自分との葛藤(?)をしているうちに、無意識にしかめっ面になっていたのかもしれない。
「あっ!すいません。大丈夫!何でもないです!」
すかさず顔の前で手を振って否定。今度は頬がほんのり温かみを帯びてきた気がする。
まったくせわしない体だ。
「田島君はなんだか堅苦しいなぁ。もっとラクーにいこ?私たちおんなじ2年生なんだよ?」
――やば。めっちゃ優しいじゃん。天使。
「あ、ありがとう。実は俺、人見知りしちゃうクセがあってさ」
「安心して?私もだから」
「本当に!?意外」
「よく言われるけどねぇ」
阿久津さんはなんだか話し上手だな。まだ二言三言しか話してないけど、少なくとも俺の緊張がほぐれてきていることが何よりの証拠だ。
「さっ。私の方からもう一回詳しく説明をするから、またさっきのゴーグルかけて準備して!」
快活な声がふたりきりの美術室に響く。
俺は言われるがまま、ゴーグルをかけた。
閉じていた目を開けると、さっき見た近未来的な光景が再び眼前に広がる。
「――すげー・・・」
と、思わずひとりごちる。未だこの光景に目が慣れていないから、何度だってそう感じてしまう。
「田島君?」
声が聞こえた。背後からだ。きっと阿久津さんだろう。俺は後ろを振り返った。
「阿久津さん――って、え!!」
彼女の姿を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。
「ふふっ。驚かせちゃったみたいだね。ごめんごめん。でもおどかすつもりはなかったんだよ?」
声の主は俺にとっての女神とも言える、自己紹介の写真にも使った――アイドルであり歌手でもある『あくるん』その人だったのだ。
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