第12話 条件は。
「悪いが、一旦切り上げてくれ」
「あ」
圧倒的とも言える仮想現実の世界に、目を奪われている最中だったが、堀木先生によって突然の中断を余儀なくされた。ゴーグルを外されたのだ。
「どうだ、分かったか?今田島が見ていたのが、仮想現実だ。見違えただろう?」
「はい・・・言葉ではちょっと表現しにくいんですけど、とにかく凄かったです」
「分かってくれれば結構だ。さーて。こっからが本題になる。ちゃーんと耳に意識集中させろよー」
本題!ますます聞き逃せない。俺はごくりと、唾をのみこんだ。
「まず田島。仮想現実内にいれば、ありとあらゆる道具は使いたい放題だ。もちろん絵を描くための、だぞ。つっても、まぁそりゃそうだよな。仮想なんだし」
「つまり、無制限ってことですか?」
「そう解釈してもいいだろう。田島の思う存分、自由に創作を表現してくれ――ただし。道具を使うにあたって俺から条件がある」
「条件?」
時間の拘束とかだろうか。考えてみれば、仮想現実に身を置いている時は現実の世界とは切り離されるわけだ。
が、堀木先生が示した条件は俺の思っていたものとはまるで違っていた。
「活動は常に、彼女と一緒にやってもらう。おーい、入っていいぞ」
堀木先生の呼びかけに応じて扉が開く。
いったいどんな人だ?一緒というからには、2人1組で取り組む必要があるということ。
彼女と言ったから女子であるのは分かったけど、初対面は緊張する。自己紹介で失敗して俺はもうすっかり萎縮気味なのだ。誠に情けない話です・・・
入ってきた彼女は、後ろでひとつにまとめた髪をなびかせながら優雅にこちらに向かって歩いてきた。
身長は女子にしてはやや高そうな感じ。160はあるかな。スラッとしていて、スタイルもいい。
――?
しかし俺は彼女の姿を見て、妙な違和感を覚えた。
どこかで見たような顔だ、と。
いや、気のせいかな。別に似た顔の人がいたなんて珍しくもなんともないもんな・・・
「紹介しよう。同じ美術部の、
「阿久津、
阿久津と名乗った彼女は、ペコリと丁寧にお辞儀をした。
同い年なのにめっちゃ礼儀正しい人だな、と俺は思った。いくら初対面といえど。
声も印象的だった。一言聞いただけでもそれは伝わってきた。
透き通っていて綺麗な声だ。
声量は決して大きくはないけど、耳に残る。
容姿も声も含めて、まるでどこかのアイドルみたい。
阿久津瑠衣さん、か・・・見た目通りの優しい人柄だといいな・・・今後ふたりで協力していくのだから、俺も俺で彼女をあまりガッカリさせないようにしないと。
「あっ、た、田島、練一、です。あの、その、お願いします」
胸に秘めた思いとは裏腹に、ここでも最悪な自己紹介になってしまったのだった。
カッコ悪いな、俺・・・
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