第11話 たったそれだけ?とは言わせない。


「ここだ。入ってくれ」


 俺は堀木先生に案内されるがままに、美術室に足を踏み入れた。

 ガラッという音を立てながら扉を開ける。建て付けが悪いのか、少し開けづらい感じがした。


 あれ?そういや、美術室ってこれまで一度も来たことなかったな。

 そもそも美術の授業自体が2年生からで、しかも選択科目だ。用がなければ必然的に足は遠のく。


 けど美術室に入った途端、俺は疑った。

 だって、ここには――・・・


「先生?ここ、ですか?本当に合ってます?」


 と、反射的に聞いてしまう。


「疑り深いなー。ここだと言ったばかりだろう」


 いやいや待ってってば・・・それらしいものが一切、置かれてないんですけど。

 美術室というならば、筆やらキャンバスやらパレットやらが常備してあるのが普通でしょ?

 先生には悪いけど、これじゃ誰がどう見てもパット見、美術室には思えないよ・・・


「他の部員の作品だったり、使用する道具類はここに置いてないんですか?」


 少しニュアンスを変えた形で俺は続けて質問した。


「ないぞ。ていうか、


「見れない?どういう意味ですか」


「全ての答えはこれをかければ分かる」


 堀木先生はそこまで言うと、今度は教室の隅っこにあるわりと小さめのロッカーの方へと移動した。ロッカーを開けたら、中からはが出てきた。


「なんですかそれ?サングラスか何かですか?」


「田島、お前ってやつは知らないのか。こりゃゴーグルだぞー。ゴーグル。、な」


「仮想、現実?」


 言葉だけは一応聞いたことあるくらいで、知識も何もない。

 そもそも仮想現実が美術にどう関わってくるのかすら全く予測不可能だ。


「かけてみるといい。その先には素晴らしい世界が広がっている」


 素晴らしい世界って・・・どんなだ?

 思いながらも俺はゴーグルを手に取った。

 そして頭の上から帽子をかぶる要領で、ゆっくりかつ慎重に装着した。


 ――刹那。


「うわっ!!」


 視界が一気に変貌を遂げた。

 

 はたしてここは・・・?周りをぐるっと見回す。

 殺風景な教室にいたはずなのに、今、俺の目の前には近未来的なものがあふれているではないか。

 あらゆるもののデザインが丸みを帯びていて、スタイリッシュさも感じられる。


 未来の美術館?ってこんな風になるのかなぁ。


 などと、俺は勝手に未来だと決めつけて想像していたのだった。

 同時に、この場所ならば恥をさらした忌々いまいましい自己紹介の汚名返上ができる気がした。

 まぁ完全に俺の予想で根拠なんてどこにもないけども。


 もう誰からにも言わせてなるものか。


 なんて。

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