第4話 気の毒だが正義のためだ(?)
俺の自己紹介を聞いていた、数少ない貴重な友人である
「自己紹介って、
歩はそう言いながら、はぁと深いため息をつく。
「いくらなんでも、自虐ネタが過ぎるだろ」
「いや、だってさ、自己紹介の段階でこれくらいインパクトを残しておかないと、俺も歩も今後さらなるぼっち化を招いていく一方だぜ。だからさ、しょっぱなからが大事なんだと俺は思うんだよ。しょっぱなから、な」
俺は机に頬杖をつきながら、熱弁をふるった。
「ぼっち化、ねぇ・・・っていうかぶっちゃけもう、ほぼなっちゃってる気がしないでもないんだけど」
「言うな!!」
「はいはい」
と、俺の反論は軽くあしらわれて終わる。
「それにしても本当に好きなんだな、太宰治のこと。まさか自己紹介の内容まで『人間失格』に似せて書くなんてよ。そんなやつ、全国どこの高校を探してもいないぞ、多分」
「『好き』じゃない、俺は『尊敬』しているんだ」
「ふぅん」
つまらなさそうに歩は返事をした。まるで興味のかけらもないらしい。相変わらず冷めている。入学当初から知り合ってから以降、俺が毎日といってもいいほど太宰に関する知識や魅力などを伝えているというのに。それもこれでもかというくらいに、だ。
「まぁ?気持ちも分からんでもないんだけどさ。名前が田島練一で、太宰の本名である津島修治とちょっとだけニュアンスが似てるし」
「だからこそ、だ」
「それにここは三鷹だしな」
そう、俺の通う高校は東京の三鷹市にある。言わずと知れた太宰がかつて住んでいた場所。
そんなゆかりの地にある学校であるからか、校内には俺と同じく太宰作品を愛読するやつが多かったりする。中には太宰の性格を真似て、酒に酔ったみたいにわざとおどけるやつもいるほどだ。
だから色んな意味で、ちょっと変わった人が集まる学校といえばそれまでなのかもしれない。俺も人のこと全然言えないけど。
「確かにもうすぐ2年になって新学期始まるわけだけど、今話した自虐ネタ満載自己紹介をクラス全員の前で話す勇気なんてあるのか?俺は練一がとてもそんな威勢のいい性格だとは思えないけどなぁ」
歩がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて忠告してくる。
「気の毒だが正義のためだ!!」
と、俺は言い放った。
「おっと今度はメロス?さっきの『言うな!!』っていう台詞もそうだったけど。あとちなみに気の毒でもなんでもないからね」
むしろ気の毒なのは練一、お前では・・・喉元まで出かかった言葉を、歩は友人のためを思い、ぐっとこらえたのだった。
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