第5話 私は信頼されている(?)


 さっき歩に、気の毒だが——と言ったのは、なにも狙って真似したとかじゃない。自然と出た言葉だ。当然だろ?作品も含めて尊敬してるんだから。


「繰り返すけど、ぼっち化はごめんなんだ。アフターフォローは歩に頼む」


「いや、無理があるって。俺も練一と似たようなもんで、影薄い方だし。だったらいっそのこと普通の自己紹介してくれ」


「そこをなんとか。だって俺ら繋がるべくして繋がった者同士だろ?」


 俺は手を合わせて頼み込んだ。


「はぁ?繋がるべくして?なんだそりゃ」


「だって俺らの名前!!俺は『津島修治』と、歩は親交が深かった『井伏鱒二』と同性。ほら。繋がった!だから縁がある!!」


「考えたこともなかったわ、そんなの」


 ここでもやっぱり歩は聞く耳を持とうとしない。さてどうしたものか。俺はさらに強く懇願する。他に頼れそうな人などいるはずもなく、つまりは早くも背水の陣に立たされたと言ってもいい。


「縁があるなしじゃなくて、自己紹介されたらフォローのしようがないっての」


 あんな、って・・・さんざんな言われようだな、俺。


「なっ・・・歩は簡単に友を見捨てるのか?メロスの友人、セリヌンティウスみたいにはりつけにされている姿をただ黙って見捨てるとでも?」


「うーん・・・とりあえず一旦、走れメロスから離れようか?」


 どうして俺の必死さが伝わってくれないんだ。俺は歩にんじゃなかったのか!

 言いたかったけど、離れろと止められてしまった以上、致し方ない。ここは我慢、我慢。


「やり方はどうであれ、近いうちにいずれ自己紹介の場は訪れる。そもそも練一は、どう思ってるわけ?」


「どう、とは?」


「自分の自己紹介の出来栄え、だよ」


「我ながら、よくできてると思う」


「そうかよ」


 はっ、と歩は俺を鼻で笑った。やはり彼にとって俺の自己紹介の内容は、好意的にはうつっていないらしい。


「大層な自信があるのはいいが・・・あくまで俺個人の意見で言わせてもらうと、多分これ伝わらないぜ?」


「どうして?」


「どうしてもなにも!例えば3枚目とかなんだよ?『あくるん』の写真そのものじゃん。おおっぴらに推しアイドルの名前告げられても、こいつだって思われるのがオチだって」


 歩は俺の推しである、とあるアイドルグループに所属の水野阿久琉みずのあくる――通称あくるんの写真をひょいと拾いあげ、眺めながら言った。


「『あくるん』は俺にとっての女神であり、希望の光を照らしてくれる存在だ。それに、もしかしたら賛同してくれる人が中にはいるかもしれないじゃないか」


「練一と似たような境遇の持ち主なら、な」


 頑固なやつだなぁと歩は内心思いながら、とりあえず適当に返事をしておいたのだった。

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