第5話 母の帰宅

 遊び疲れてはるの部屋で寝ていたごん吉が、さっと起き上がった。

間もなくして、ガラガラガラガラっと玄関の戸が開く音がした。

母が帰宅したのだ。

はるは母が帰宅する時間にはいつも二階の自室にこもっている。帰宅後の機嫌の悪い母と顔を合わせないためだ。でも今日はどうしても報告したいことがある。

ごん吉を抱えて階段を下りていくと、母は、ヒールの靴を脱ごうとしていた。

「お母さんっ!あのね、ごん吉が・・・。」

「今疲れているの、後にしてくれる?」

「・・・。分かった。」

母は靴を脱ぎおえると、居間へと向かっていった。はるは母を追いかけることはせず、ごん吉を抱えたまま自室に戻ることにした。ごん吉をそっと部屋の床に下ろすと、また、たしたしとふとももを叩かれた。

「抱っこするなー!あれ嫌いー!」

「ごめんごめん、だってお母さんに、ごん吉が喋れること報告したかったんだもん!」

「報告してないじゃん!」

「お母さん、今、疲れてるんだって」

「疲れてたら人の話を聞かなくてもいいの?」

はるは思わず吹き出してしまった。

母は基本はるの話に興味がない人だった。はるが話しかけると、いつも

「忙しいから後にしてくれる?」と言って遮るのだ。

「今日は確かにタイミングが悪かったのかも、でも、忙しくても、疲れてても、人の話を聞かないのはよくない」

「じゃあ、お母さんは、よくない!」

「うん、よくないね」

「ぼくは「よい」から、はるの話をきく!」

「ありがとう、ごん吉」

はるは、思わずごん吉をぎゅっと抱きしめた。

「抱きしめるなー!って言わないの?」

「今はなんだかいい気分だからいいよ!思う存分抱きしめて!」

はるは優しくごん吉を抱きしめなおした。


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