第2話 母の返事
無言で、スマホの画面を見せる。そこに映っているのは例のクラスラインだ。
「こういうのがしんどい。犯罪者と同じ空間に通いたくない。」
母は黙ってスマホの画面を見つめた。そして、スマホを受け取ってさらにじっくりと
読んでいた。
「これやられているのははるなの?」
「違う。別の子。」
「いじめ自体はよくないよね。でも、なんでそれではるが学校に行かないの?」
「それは・・・。」
何も言えなかった。
「とにかく、学校には通いなさい。いじめのことは先生に言っておくから。」
「・・・。わかった。」としか言えなかった。
中学校の入学式の日、はるは学校には行かなかった。用意された制服を着もせず、朝早くに家を出て、徒歩三十分ほどのところにある、公園に向かっていた。誰に何と言われようと、学校に行かないと決意してのことだった。しばらくそこで時間を潰していると、予想通り母から電話がかかってきた。恐ろしくて出ることができなかった。着信が百件を超えたころには、すっかり夜になっていた。公園のブランコを揺らしながら、これからどうしようかと星空を見上げた。わたしはホームレスってやつになるのかなあとぼんやり思った。まだ、小学生でお金稼げないから、飢え死にしちゃうのかな、でもいいや、どうせ学校にいても、家にいても殺されるし。どの道、死んじゃうんだから。そんなことを考えていると、携帯が鳴った。また母からのショートメールが届いていた。そのメールの内容は朝から夕方までの内容とは少し違っていた。前までは、「どこにいるの?ありえない、早く帰ってきなさい」「もうご飯は作りません。勝手にしてください。」等だったのが、「学校に行かなくてもよいので、とにかく早く帰ってきて。夜遅くなって心配です。」と書かれていた。
メールから母の怒りが少し消えていることを感じた。母は怒りよりも心配してくれているのかもしれない。四月とはいえ、夜の公園は肌寒く、暗い。ここで一夜を明かすことと、心配してくれているかもしれない母の元に帰ることを天秤にかけた結果、はるは家に帰ることを決意した。
家に帰ると、母が玄関で待ち構えていた。その姿をみた瞬間回れ右をして、公園に戻ろうかと思ったが、「待ちなさい。」と声を掛けられた。びくりとして、その声にしたがった。とにかく母が恐ろしかった。眉間にいつも皺を寄せて、険しい表情の母が。学年全体でいじめられているわけではないが、わたしのことをいじめてく子は確かにいて、その子の表情に似ていたから。でも、母はそんないじめっ子が絶対にしないように、わたしのことを抱きしめた。
「ごめんね、学校に行きたくないって気持ち。尊重してあげられなくて。」そんなことを抱きしめられながら言われて、私の目には自然と涙が溢れてとまらなくなった。「もう、学校行かない。行かない。」と繰り返し言った。
母は「分かった。もう行かなくていいよ。」と言った。
そうは言っても、学校に行かず、ぐうたら過ごしていると、母の反感を買うことまったなしだったので、わたしは家にいる間、できる家事は積極的にやった。具体的には洗濯物を洗濯機にかける、干す、そして、畳む、などだ。それが終わると、自由に過ごしたが、不登校になって1週間ほど経った日、ある変化が起きた。
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