不登校と猫

@zigokukarakonnitiwa

第1話 中学校には行かない。

中学校には行かない。

そう決意したのは、小学校を卒業して、中学校入学を控えた春休みのことだった。

はるの通っていた学校は、学年が上がるにつれて学級崩壊と呼べる状態になっていった。その中では様々な人間関係のいざこざが起こり、もはや授業どころではなく、話し合いと呼ばれる時間が多く取られていた。はるは、自分には関係がないとしても、いつそのようないざこざが自分に降りかかってくるのだろうと怯えていた。そのような小学校での生活はいつもはるの心にどんよりとした暗澹さをもたらしていた。


 それでも、はるはなんとか学校に通い。そして、卒業をした。はるは束の間の春休みに安堵していた。そんなはるに、一通の通知が届く。それはクラスラインからで、そこには学年全体でいじめにあっていた女の子の個人的なSNSの投稿が晒されていた。はるは戦慄した。人の尊厳を踏みにじらないでほしい。切実にそう思った。

そして、クラスラインをそっと閉じ、それからはもう中学校には行かないことを決意した。積極的にいじめをする生徒を、はるは犯罪者のように感じた。なぜ、犯罪者と同じ教室に通わなければならないんだろう。


 はるが学校に行きたくないと思い始めたのは、小学校一年生の頃だったが、それでも通い続けたのは、ひとえに母の存在があったからである。母は少しヒステリックなところがあり、仕事から帰ってきて、疲れているからなのか、仕事でなにか嫌なことがあったからなのかは分からないが、怒鳴り散らし、物を投げつけてくることがあった。そんな母に、「学校に行きたくない」などと言えば、「自分だけ楽をして」などと言われ、許してもらえるはずがないとわかっていた。だから行かないという選択ができなかった。しかし、今は、学校に行けば生徒に殺されるし、学校に行かなかったら母に殺される未来が見える。それならもう学校に行かずに殺される方を選ぶほうが、人間の尊厳を傷つけられない死を迎えられそうだと思った。


 ある日の夕食前、ちょうど母と二人きりになった。お菓子を食べながら、テレビを見るだらだらとした時間、私は唐突に、「学校行かない」と言った。緊張からかえって単調な口調になったと思う。マドレーヌを頬張りながら、テレビを見ていた母の表情がみるみる硬くなっていくのを見ながら、わたしの緊張感はピークに達した。「なんで?」と理由を聞かれた。意外だった。もっと頭ごなしに否定されることを想像していた。





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