第三幕: 真実の鏡

 黒猫の不可解な視線が私を導く。その動じない瞳は、家の奥深く、普段は足を踏み入れることのない部屋へと私を誘う。そこは、時が忘れ去ったような場所で、空気は古びた秘密で満ちていた。鏡が壁にかけられている。その鏡は、一見、ただの古い鏡のように見えるが、私には何か別のものが隠されているように思えた。


 私の手が、鏡の冷たい表面に触れる。指先に感じる冷気は、まるで他の世界からの風のようだ。鏡の中には、私がこれまでになったことのない、全く異なる自分の姿が映っている。眼前の姿は、私の記憶には存在しない他人の顔をしている。その瞬間、私の心は恐怖で凍りつく。


 私は誰なのか。私の本当の人生はどれなのか。その答えが、この鏡の中にあるのだろうか。鏡の中の私は、私に何かを伝えようとしているように見える。その目は、私を通り越し、私の魂の奥底を見ているかのようだ。その眼差しは、私がこれまで感じたことのないような、深く沈んだ悲しみを秘めている。


 私は鏡の中の自分に問いかける。


「私は誰なのか?」


 鏡の中の私は黙ったままだが、その悲しみの中に、真実を見る勇気があるかのように見える。

 私はその悲しみの理由を知りたい。

 私は真実を知りたい。


 私は鏡に向かって手を伸ばす。すると、鏡の中の私も同じ動作をする。私たちの指が触れる寸前で、何かが変わった。私の視界はぐるぐると回り始め、鏡の中の世界が現実と入れ替わる。私は、鏡の中にいた。


 私の新しい世界は、鏡の中の世界だ。私は、自分の部屋に立っている。しかし、そこは私の知る部屋ではない。部屋には、私がこれまでに書いたことのない詩が散らばっている。そして、鏡の外にいる猫が、私に向かって何かを言おうとしている。


 私は、その猫がかつての私だということを知った。

 猫は、私に真実を教えようとしている。

 私は、その猫の目を見つめ返す。

 私は、その猫が私に何を伝えようとしているのか、今はまだわからない。

 しかし、私は知る。

 私は、その猫が私に教えようとしている真実を見つけ出すべきなのだ。

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