オリフィエル
誰が担任を呼びつけたのか知らないけど、高木さんが僕を「殺そうとした」ことは大騒動になった。高木さんの親が家に謝罪に来たり、親父には
「女の子にやられるってお前大丈夫か?」
とか訳の分かんないこと聞かれるし、お母さんは高木さんに怒り狂ってるし。暫く休めって親に言われてその通りにした。塾には通ったけどね。
で、その塾帰り。高木さんのお父さんに車で跳ね飛ばされたんだ。
意識不明の重体で5日。死亡が確認されたのは事故の6日後。泣き狂う両親の姿を見るのは辛かったな。僕だってこんな目に遭うなんて思ってないからさ。
謝罪に来た高木さんのお父さんが
「お宅の息子さんにも落ち度があったんじゃ?」
と口にしていたなんて知らなかったし、知っていたら少しは警戒したかも知れないのにってオリフィエルに問うてみても
「それはないね。君は高を括ったさ」
と軽く言って退けられた。
5歳くらいの男の子なのにやたら達観していて、瞳の奥は物憂げで、近寄りがたい圧も感じたりで、僕は一目見てオリフィエルを気に入ったんだ。
オリフィエルは色んなことを教えてくれた。この世界で暮らしていくのに必要なこと、様々。服は着たければ着ればいいし、着たくないならこことは別の場所に行けばいいとか。飲食の必要はないこととか、髪の毛なんかはもう伸びたりしないから、切る必要はないとか。
「下らないことばかり聞くね。もっと他に知りたいことあるだろ?ここはどこなのとか、君は誰なんだとか」
オリフィエルは呆れたように口にしたけど、そんなことどうでもよくて。僕はオリフィエルを気に入って、子供の頃から歩いてみたいと願っていた雲の上を闊歩できるようになったことを心底喜んでいて、だから高木さんがその後どうなったかなんて考えもしなかったんだけど
「あの子は灰になったよ」
とオリフィエルに伝えられて。
「灰?死んだの?」
「跡形もなく消え去った」
ふーん、と僕は鼻を鳴らした。死ぬならあの親父の方じゃないかと思ったけど、そうはならなかったみたいだな。余罪ってのが他にいくつもあって、娑婆に出てくることはもうないらしいと、父親が親戚に語っている映像をオリフィエルは見せてくれて。
「お母さんの姿は見ない方がいい」
って言うからその通りにした。あの人は愛情のかたまりだからね。ひとり息子に先立たれたら、どうなるかなんて聞かなくても分かるというか。
「ああ。母さんはいいや」
学校には行かなくていいけど塾には行くように、僕に命じたのは母さんだったから。多分物凄く責任を感じていると思うよ。車が目の前に現れた瞬間、僕は生ぬるい空気に包まれて眠りこけていたから、痛みを感じたことは多分ないと思うんだけど、オリフィエルは
「そんなことはないよ。君が忘れているだけさ」
って言うし、どっちなんだろうな。多分オリフィエルの言う通りなんだろうけど、もう覚えていないし、そもそも痛みなんか覚えていなくていいし。
そんな話をオリフィエルにしたら、存外愉快そうに笑って
「君らしくていいんじゃない?」
って言ってくれた。
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