悲しいいきもの

昼休みになって高木さんに

「ちょっといい?」

って声かけられたから

「嫌だ」

って答えた。そしたら周りのやつらがまた笑いだすから

「うるさいな!」

と僕は怒鳴って教室を出た。

「何あいつ」

なんて声が背中に届いたけど、そんなの知るもんか。僕は憤慨していた。僕のことを仲間外れにしていた連中が、僕が高木さんを「みんなが嫌っている」と発言した途端、仲良くしようとしてきたから。僕は全力で断った。君たちと同じレベルに落ちたくないよ、って。僕の話す言葉の意味が彼らはどうも理解できないようで、なんやかんやと声かけてきたけど一通り無視して、給食を食べ終えて片付けていたら高木さんが話しかけてきたんだ。


教室を出た僕を高木さんは追いかけてきて

「待ちなさいよ!」

とか

「逃げるな!」

とか、偉そうに指図してきたけど僕は無視した。待つ理由なんかないし別に逃げてないし。「君のことを避けているんだよ」と教えてあげた方がよかったのかな。今はもうそんなこと、どうでもいいんだけど。背後で喚き声をあげていた高木さんは次第に遠くなって、僕は校庭に出た。


テニスに興じている連中を暫し眺めて、5時間目が始まる前に教室に戻るつもりでいたんだけど、何か色んなことが急に嫌になっちゃって。テニスやってる彼らはとても楽しそうなのに、僕はこんなに嫌な気持ちを全身に纏っていて。何て面倒なんだろうって。

家に帰ろうと教室に鞄を取りに行ったんだ。


教室のある3階に辿り着いて、みんなはまだガヤガヤやっていて、僕は鞄に教科書やらを詰め込んで廊下に出た。

「帰るのー?」

って誰かが聞いてきたけどそれも無視した。ムシャクシャしていたんだ、どうしようもなく。

階段を降りようとした瞬間、背中に衝撃が走ってさ。僕は慌てて手すりを掴んで振り向いたんだけど、凄まじく顔を引き攣らせた高木さんが僕に

「死ね!」

って言ったんだよね。え?と思ったんだけど、高木さんは何度も「死ね!」と言いながら、僕を階段から落とそうとするわけ。でも僕は手すりを掴んでいるし、力で高木さんに負けるわけはないし、

「何やってんのあんた?」

って言いながら、高木さんのパンチや蹴りを避けてたんだ。そこに担任が駆けつけてきて


「何やってんだお前ら!」


だってさ。僕は何もしてないっての。高木さんのひとり相撲じゃないか。バカバカしい。


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