独白

「よくそんな風にできるね」


僕は言ったんだ、高木さんに。2人きり、屋上で話し合おうと思って。高木さんは悪びれもせず


「あんたが勝手にやったことじゃない」

「いい人ぶりたかっただけでしょ、私を使って」

「目的達成できたんだからよかったじゃん。お礼言ってほしいくらいだよ」


って畳みかけてくるから頭にきてさ。いい人ぶりたい僕が勝手にやったことなのなら、最初にシャットアウトすればよかったじゃないか。

「あんたなんかお断り」

って。

時に涙を見せながら孤立していることが辛いって言うから、話し相手になったのに。そんな人だと知っていたら端から相手にしなかったさ。


「僕が悪いってこと?」


下らない問いかけに高木さんはとても偉そうに踏ん反りがえって

「そうね」


と言ったんだ。ああ、もういいや、って。それを聞いたとき。僕が悪かったんだよ、こんな人に良かれと思って声をかけてしまったんだもの。

だからそれ以降僕は高木さんと一言も口をきいていないし、何ならお互い知らん顔して過ごしていたんだけど、僕がいじめられるようになったからって、僕を煙幕にしようと試みたって、高木さんが女子の魔手から逃れられたわけではなくてさ。あの人いじめられて辛いって言っていたけど、あの性格の悪さじゃそりゃ疎まれるんじゃないの。


あの日「絵の具がない」って慌てる高木さんを相手にする人は、クラスに誰もいなくて。女子も男子もみんな知らん顔してたし、僕は3時間目の国語の準備に忙しくしていたから、やっぱり知らん顔したし。どうしよう、どうしよう、っていう高木さんの呟きを(うるさいな)と思いながら聞き流したんだ。


4時間目、美術の先生はこれ以上ないほどに高木さんを叱責したんだ。弛んでるとかバカにしてるのかとか、なんかそんなことを喚き散らしてさ。僕以外にも先生の迫力に呆気に取られる人、結構いた。普段そんなに怒らない先生っていうのもあるけど、

「俺はお前が嫌いなんだよ!」

って高木さんに先生が怒鳴った瞬間、美術室は静まり返ったね。先生がそれ言っちゃうんだ、って。

僕は空気を変えようとか先生を助けたいとか、そんなことを考えたわけじゃなく、本心から


「高木さんのことはみんな嫌いだよ」


と言ったんだ。だってそうに決まっているもの。親切にした僕をあんな風に謗って、平気な顔して僕を盾にしようとして失敗して、それまで以上に嫌われて。

なんてバカなんだろうとずっと思っててさ。だから思わず口にしちゃったんだよ。


「ちょっ!」


女子の中で一番目立つ子が、そう言ってケラケラ笑いだして。そしたらみんなも笑いだして。その現象を僕は不思議なもののように感じたから、ふと周囲を見渡したのだけれどなんでか先生も笑っていて。赤と青と黒が混じったような顔色をして、全身硬直させた高木さんをみんなが嘲笑していた。僕は笑わなかったんだけど、高木さんはきっとそんなこと気付いてもいないんだろうな。


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