少し前のこと
僕がここに来たのは随分前のこと。クラスメートの高木春海さんがさ、絵の具を忘れちゃったんだよ。4時間目美術なのに。絵を描くのに絵の具がないのはいけないね。描けないからね、描きたくても。
高木さんは困ってた。絵の具を忘れたことに気付いたのか、4時間目美術だということを忘れていたのかそれは分からないけど、2時間目の休み時間に急に慌てだして。
「どうしよう」
とか言ってたな。高木さんは女子からいじめられていて誰からも話しかけられなくて、可哀想に思って僕は時々話し相手になっていたんだけど、そしたら僕もいじめられるようになっちゃって。参ったよ。どうしてああなんだろうな、彼らは。ひとりじゃ何もできないくせにさ。
僕はひとりでも平気だし、乱暴な男子に背中を蹴られたり、みんなから無視されたって先生に何も言わなかったし、親にも泣き言は言わなかった。男だからとか陳腐な理由じゃなく、あんな連中と同じフィールドに立つ気はなかったから。
だけど高木さんは違って、僕がいじめられるようになったことをこれ幸いとばかりに、煙幕に使うようになって。それまで培った関係なんてどうでもいいって感じで放りだしちゃってさ。あれには参ったね。ひとりぼっちは平気だけど、それなりに打ち解けたつもりでいたから、そんな相手に手酷く切られるのはそりゃ抵抗を覚えるさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます