SS二本立て

 =夜・大阪日本橋近くの避難所(学校)にて=


 その1:北川 舞


 ディフェンダー所有のキャンピングカーに備え付けられたソファーに座り、北川 舞はスマホを片手にとある人物と連絡をとっていた。


「日本政府はアテにならないね。平時でも、まともに国の舵取りも出来ない連中がこんな異常事態中の異常事態に対処できるワケがない。戦隊ピンクを拉致してそれを材料に交渉すると踏んでるけど」


『その辺は僕も予想通りだね』


 スマホの向こう側にいる少年が同意した。

 北川 舞が通う琴乃学園の後輩に当たる人物だが、単に学園の後輩と言うカテゴリーに組み込んで良いかどうかは舞にとっては疑問符がつく相手だった。


「それはさておき、そっちの状況はどうだ?」


『I市は大丈夫だよ。I市はある種の魔境だしね』


「確かにな」


 エンジェリアとその敵対勢力のダーク・セイバー。

 並行世界跨いでやってきた悪の組織、ダークスターズ。

 宇宙からやって来たスターレンジャーと宇宙からやってきた侵略者アークゾネス。

 そして異世界を救った勇者とかも住んでいる。

 魔境と呼ぶに相応しい。


 今電話をしているのは異世界を救った勇者の一人、谷村 亮太郎だ。 

 

『まあ、大事には至らなかったけど今回の一件はとても許し難く思っている』


 ザターンの侵略活動。

 それが谷村 亮太郎の逆鱗に触れたらしい。

 

『それで僕は何をすればいい?』


 と。

 冷静な態度で。

 それでいて冷たさを感じる声色で尋ねて来た。


(まだ指示を聞くと言う選択肢が出来る辺り、怖いんだけど)


 立場上、人間の怒る場面は何度も触れて来た北川 舞。

 谷村 亮太郎はキレてるが、理性で上手く怒りをコントロールしているようにも感じた。

 怖さにも色々と種類はあるが、谷村 亮太郎は敵に回したら危険な怖さだ。

 本人の戦闘能力もまだ底が見えないところも含めてだ。

 

「何をすればいいと聞いてきたのなら、此方の方針に従うと言うつもりなのかな?」


『――その確認の意味を含めてそちらに向かうよ』


 そう言って一方的に切った。

 相手は宇宙人。

 科学技術を考えれば無線なんて簡単に傍受できる。

 やらない、してない可能性も考えられるが、相手のマヌケに期待して動くのは末期で敗戦間近の現実が見えてない国家ぐらいだ。


(文明の利器を手放せばいいと言う程、簡単な話ではないがね)


 と、思いつつ各所に連絡を入れる。

 

(此方の手札は自分ですら把握できていないのだしね)


 例えば闇乃 影司。

 先の戦いでは周辺の建造物などに配慮してか本気を出して戦わなかったらしい。

 もしも本気で戦っていたら、敵は倒せたがスーパーパワーを持つ外宇宙出身のアメコミヒーローがフルパワーで戦うぐらいの惨事にはなっていただろう。


(他にもヒーローはいるワケだし――闇乃 影司の保護者の大宮 優は今、何処で何をしているのやら――)

 

 大宮 優。

 闇乃 影司の保護者、恩師でもある。

 姿を見せないが、今の状況で大人しくしているとは考えにくい。

 そのうちヒョッコリ姿を見せるだろうと舞は思う。



 その2:闇乃 影司

  

 闇乃 影司は人目が気になりながらも避難施設で様々な作業を頑張っていた。

 傍にいるナオミもそうだが、まるでアイドルのような扱いである。

 影司も自覚はしているが、容姿は絶世の美少女であり、何でも屋の仕事を続けていたせいか、態度も軟化していた。

 

 とてもだが、昔大勢人を殺しました過去がありますとは思えないキャラクターだった。


 だがまあ変身後のビジュアルを見ればザターンの侵略者とかと間違われるかもしれない程に凶悪であるが。


 闇乃 影司はあいと同様にあれこれと不安を抱えながら作業していた。


「大丈夫ボウヤ?」


 相変わらず目に毒な、胸の谷間とか丸出しの爆乳をライダースーツから惜しげもなく披露するミサキ・ブレーデル。

 少し姿を消していたのだが、またヒョッコリと闇乃 影司の前に姿を現した。


「あ、ミサキさん――僕はその、うん、ちょっと不安だけど大丈夫」


「何が不安なの? 罵声浴びせられたり、石とか投げられるのが不安?」


「はい――いや、賞賛浴びたいとかそう言うんじゃないですよ? ただそう言うの怖いなって—―」


「変な心配するのね?」


「ええ――それに――」


 一呼吸おいて影司はこう言う。


「あいさんの事も心配ですし。絶対あの人のせいで侵略起きたとか言う人現れますよ」


「もう、私と言う女がいながら他の女の話?」


「ああ、その、ご、ごめんなさい」


 慌てて影司は謝る。


「でも心配なんです――」


「ボウヤは優しいのね」


「優しいですか?」


「うん、かわいらしいぐらいに」


「かわいいって……」


 顔を真っ赤にして照れた反応をする。

 闇乃 影司。

 かわいいと言われて嬉しいタイプである。


「そんなに心配ならあいさんに直接尋ねてみたら? いい仲って聞いたわよ?」


「どうなんでしょう――」


「その容姿と性格なら余程変なことしなければ邪険に扱われないわよ。自信持ちなさい」


「う、うん」


 そう後押しされて影司はあいの方へ向かった。 



 やる事がなくて、暇なのかあいは避難所の物陰に人目を避けるように立っていた。

 影司は「大丈夫?」と心配そうに声をかける。

 

「影司君? うん、私は大丈夫――」


「そう?」


「さっきまでしおりと一緒にいたんだけどね。影司君も私のこと心配なの?」


「うん」


 影司はそう言うとあいは――


「かわいい弟が出来たみたい」


「か、かわいいと言っても本当の姿はアレですけど――」


 影司は自分の変身後の姿を思い浮かべながら言う。

 

「うんうん、影司君は本当にかわいいよ?」


「そ、そうですか……」


 誉め言葉としてあいの言葉を受け止める影司。

 恥ずかしげにかわいらしくモジモジする。

 その様子がおかしいのかあいはクスクスと笑う。


「あの――あいさん。僕に出来る事があれば言ってくださいね」


「優しいんだね」


「どうでしょうか……」


 自分は優しいのだろうか?

 影司は恥ずかしげに頭を捻る。


「ふと思ったんだけど、あの金髪の女の人とはどう言う関係なの?」


「ミサキさんですか? ちょっと前のとある騒動で知り合って、それから探偵事務所にいついて――どうなんだろう――」


 お姉ちゃんみたいだと言いかけたが闇乃 影司は自分自身何度も言うように男の子で性欲やその手の知識もある。

 何ならミサキとは無いが、性行為の経験だってある。

 だから考えてしまう。

 彼女と夫婦になったところを。

 考え過ぎかもしれないが遅かれ早かれ何時かは決断しないといけないことだ。


「特別な人なのね?」


「うん――自分でもよく分からないですけど、特別な人ですね」


「ミサキさんが羨ましい。私もそう言う相手見つかるかな……」


「あいさんなら見つかりますよ」


「影司君ならいいかもと思ってるのよ?」


「え?」


「私がいやらしい過去がある女ってのはもう知ってるわよね?」


 影司はこくんと頷いた。


「だからなのかな。異性にこうして気を許しちゃうと――」


 その言葉を遮るように影司は言った。


「それを言うなら男の僕だって――その――Hな事とか考えちゃいますし――でも、その、えーと、男女の関係って性行為だけの繋がりとか、なんて言えば良いのか分からないですけど、それが貴方の選択ですか?」


 あいは顔を真っ赤にして驚いた様子だった。

 影司も顔を真っ赤にして、そして嫌われる覚悟で言った。


「本当に変でかわいい子」


「は、はあ?」


 あいに笑われて影司は(嫌われたかな?)と思いつつその場を後にした。

 この会話を何処からか覗き込んでいたのか、ミサキにからかわれるのはこのすぐ後だった。

   

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