決意の変身

 Side あい


 =朝・大阪日本橋=


 大阪日本橋にザターンの兵士が展開していた。

 

 迷うことなく、戦う。

 

 まだ朝と言う時間帯ゆえか、人はそんなにいないのが救いだった。

 それでも繁華街と言うだけあってそれなりの人はいた。

 呑気にもスマホで動画撮影に勤しんでいる輩までいる。

 

 あいはとにかく「逃げて下さい!!」と言いながらザターンと戦うしかなかった。


 ――だが適当に戦っては勝てるもんも勝てんと思うがね?


 北川の言葉が脳裏に浮かぶ。

 あの少女の言う事は確かに一理ある。

 だがあれこれと考えてばかりでも始まらないとも思う。


(皆がいてくれたら――)


 せめて仲間が居てくれればとあいは思う。


 レッドのりっか、ブルーのアクア、イエローのティナ、グリーンのみどり。

 他の宇宙戦士スペースVのメンバー。

 今も何処かで戦っているのだろうと思う。


「たく、なんだこいつら!? なんとか戦隊の世界から飛び出して来た連中か何かか!?」


 ふと生身で戦闘員を殴り倒している少年を目にする。

 影司のように実は体を改造されていますな人だろうか?

 他にも歳がいったおじさん、灰色の帽子にトレンチコートのスーツ姿で警察が使う拳銃片手に果敢に戦闘員相手に挑んでいる。

 他にも生身で蛮勇を発揮している一般人の姿がみえた。


 そして—―


「キリがないな」


『影司君!!』


 闇乃 影司の姿が見えてあいは合流する。

 周囲には戦闘員達が倒れ伏していた。 


『大丈夫なの?』


「まあな。倒した端から敵が補充されてくる――」


 そうは言うが汗一つ掻いていなかった。

 

『ここにいたかスペースピンク!!』


『ここが貴様の墓場だ!!』


 そして十体の銀色の怪人が送り込まれてくる。

 ワニ、クマ、サメ、カブトムシ、クワガタ、戦車、戦闘機、戦闘ヘリ、イカ、タコ。

 バリエーションに富んだラインナップだ。

 問題は数。

 この数を見てあいは「本気で殺しに来てる」ことを悟った。


『また、ぞろぞろと湧いてきて—―』


 闇乃 影司は恐怖を感じた様子はなく、鬱陶しいのが増えたぐらいの様子で10体の怪人に向かっていく。

 その様子を見て、あいは頼もしさと同時に危機感を覚えた。


(確かに影司は強い—―けど—―)


 闇乃 影司は強い。

 恐らく自分よりも—―と愛は思う。


 だが何処まで戦えるのかが分からない。

 闇乃 影司は個人であり、人間である。

 無限に戦えるわけじゃない。


 だが彼がいなければあっと言う間に倒されるのも事実。

 その事実に胸を痛めた。


(情けないわね—―)


 などと自虐しながらスペースピンク、あいは戦闘に臨む。


「お待たせ~!!」


『しおり!?』


 宝田 しおりがきた。 

 ツインテールを揺らしてゼェゼェと息を切らす。


「私も戦う!!」


「私も戦うって!? どう言うこと!?」


「こう言うことよ!! 変身!!」


 そう言って宝田 しおりはバックルベルトを腰に巻き付ける。

 特撮ヒーローの変身ベルトのようにベルト自体が意思を持っているかのように捲きついた。

 そして変身。

 宝田 しおりの姿が変わる。



 Side 宝田 しおり


 宝田 しおりは地球人ではない。

 あいと同じく宇宙人。

 母星での難を逃れるために地球人として生きている。

 

 そうして時折、変身ヒーローに変身しては都市伝説になる程度には活動。

 メイド喫茶の店主、ヘレン・P・レイヤーとも繋がりを持つようにもなれた。

 そんなオタク女子である。


 地球での暮らしは大変だった。

 けど良い事も沢山あった。


 その良い事が失われようとしている。

 それを仕方ないことだと、しおりは諦めようとしていた。


 そりゃそうだ。

 宇宙からの侵略者だ。

 どうしようもない。

 言い訳は幾らでも思いつく。


 だけど、逃げているようで嫌だった。

 そしてこのまま逃げるとずっと逃げた事を後悔しそうで、永遠と逃げる事に苦しめられそうだった。


 後の時代に第三者からの「仕方なかった」、「君は悪くない」と言う優しい言葉で救われるかもしれない。

 

 宝田 しおりはそんな未来を否定した。


 どっかの誰かが、名の知らないヒーローが解決すると言うのを拒んだ。

 もしかすると足手纏いになるかもしれない。

 ただの脇役AかBで終わるかもしれない。

 どんなに頑張っても称賛される事もなく、罵倒されるかもしれない。


 だがやらない選択肢をみつけるのは簡単だ。

 宝田 しおりは選択した。

 

 自分の一歩で世界は救われなくても、物語の大筋は変えられなくても、顔も知らない誰かの物語を少しだけでも変えられるかもしれない。


 だからコレクションを解放した。

 

(もしかすると、こう言う時が来るために準備していたのかも)


 宝田 しおり。

 ツインテールが特徴の変身ヒロインが大好きな稀有な少女。

 オタク女子。

 その正体はガチの変身アイテムを集める少女でもある。


 変身した姿はピンクのメタルヒーロー系。

 彼女のボディラインがくっきり浮かび上がっている。

 手にはブレード、もう片方の手には銃を持つ。


 今風の流線的で、そして宇宙刑事、メタルヒーローの伝統、特徴を取り入れたヒーローがここに誕生した。 

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る