第2話 超能力って、何ですか?

 結局あの後は犬飼先輩と連絡先を交換し、まっすぐ家に帰ったのだけれど、凛香の頭には1つ疑念が残っていた。

 あんなに怪しい人がリーダーで本当に大丈夫なのだろうか。

 少なくともまともな人は自分は超能力者だなんて言わないだろう。


 一度確かめておく必要がある。彼女が仮に超能力者だとして、一体何ができるのか。


 翌日。学校が終わると例の部長さんが教室まで出迎えに来た。暇なのだろうか。


 「昨日は来てくれてありがとう。今日は貴方に渡したい物があって来たわ。はい、入部届」


 渡された入部届は至って普通だった。なぜかゴシック体で書いてあるため遠目で見るとトイレの注意書きに見えなくもない。


 「こういうのって先生から貰うものじゃないんですか?」

 「非公認だから代々こういうスタイルでやっているの。DIYってやつね」


 ちょっと違う気がするが口に出すのはやめておいた。今はそんなことよりもするべき質問がある。


 「あの、犬飼先輩!」

 「時雨さんで結構よ。みんなそう呼ぶわ」

 「時雨さん。1つ質問したいことがあるんですけど......」

 「なぁに?」

 「せんぱ......時雨さんが超能力者って本当なんですか?」

 「ええ、本当よ」


 質問を間違えた。そりゃあそう答えるに決まっている。

 自分を超能力者と名乗るくらいの人があっさり『いや、違います』なんて言ったら逆に怖い。変人というより狂人の類になってしまう。


 「どういうものか見てみたい?」

 「あっはい、お願いします!」


 危ない。何とか計画通りに進んでくれた。向こうから見せてくれるのなら話が早い。


 「そうなると場所を変える必要があるわね......行くわよ如月さん!私たちの部室へ!」

 「え、時雨さん!?待ってください!うわっ速い!歩幅がすごい広い!」


 私は小走りで時雨さんを追いかけた。

 部室は4階の1番端にあり、私のクラスからは割と離れている。

 この階は理科室などの特別教室しか無いため、放課後になると人はほとんどいない。


 「部室にも着いたことだし。私の能力を説明していくわね。如月さん、手を出してくださる?」

 

 言われたとおりに右手を出すと、彼女はゆっくりと私の手を握った。

 正直ドキドキしている。この人は黙ってさえいれば完璧な美人なのだ。


 10秒ほど無言の時間が続いたが、やがて時雨さんは手を離し、ニコニコしながらこう言った。


 「朝はご飯派なのかしら?納豆ご飯に豆腐の味噌汁、きな粉入りのグラノーラが入ったヨーグルト......大豆ばっかりね。」

 「うわ、びっくりした!!何で私の朝ご飯知ってるんですか?」

 「これが私の能力よ。私は手を握った相手の記憶が見えるの。けっこう便利でしょう?」

 「便利っていうか、ちょっと怖いんですけど」

 「ふふ、安心して頂戴。プライベートでは使わないわ。これ意外と疲れるのよ。」

 「そういう理由なんだ......」


 そんなやりとりをしていると、突然知らない人が部室に入ってきた。

 滝のようにうねった青い髪が印象的な、小柄な女子だった。


 「あーしは軽音楽部副部長の大隈花恋おおくまかれん!!凛香ちゃん、あなたを頂きに来た!!」

 「なんで!?」

 「まあ横暴。残念だけどこの子はもううちの子よ。お引き取り願うわ。」

 

 まずい。この部屋の3分の2が変人になってしまった。逃げられるものなら逃げ出したい。


 「いーや、凛香ちゃんは貰ってく!!そもそも入部届も何も出してないんでしょ?こっちにも勧誘する権利はあるよね?」

 「それもそうね。良いわ!如月さんを賭けて勝負といきましょうか」

 「私の権利は?」

 

 向かい合う先輩たち。こうなってしまった以上、私にできることは1つしかない。


 逃げる!!


 「すみません!帰ります!」

 「凛香ちゃん!?......そっか、行っちゃうんだ......でも逃がさないよ。欲しいものは絶対に手に入れる。それがあーしの生き方だ!!捕まえろ!!【綿の恋人】プラッシーラバーズ!!」


 2階まで降りれば私のクラスがある。そこに置いてある鞄を取ったらすぐに学校を出よう。

 そう思っていたのだけれど......


 「どういうこと!?」


 階段の前で待ち伏せていたのは、巨大なテディベアだった。小学6年生くらいのサイズで、右腕に水色のリボンが付いている。


 「え、こっちに向かってきてる......?よく分からないけど、今は気にしてる場合じゃない!」

 

 その時だった。後ろからドスドスと、重い足音が近づいてくる。


 そして......気づいた時には私はもう、ぬいぐるみの中だった。


 


 

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