秘密新聞部の超常的スクールライフ

おもち丸

第1話 如月凛香と怪しいお嬢様

 如月凛香きさらぎりんかは高校生活で最も大きな決断を迫られていた。

 「ちゃんとした部活に入らなければ......!」


 私が入学したこの学校、私立英琳学園ははいわゆる名門校である。

 多くの経営者や著名人の子供が通っていることもあり、そのブランド力は国内でもトップクラスを誇る。


 しかし私は大きな不安を抱えていた。

 外部生かつ一般家庭出身の私が果たしてこの学校に馴染めるのだろうか?


 学力だけでここまで来てしまったこともあり、私の対人スキルは良くて中の下である。

 某少女漫画のように財閥の息子から嫌がらせを受けたりした日には心臓が爆発してしまうかもしれない。


 なので私は部活選びに力を注ぐことを決めた。みんな親切で優しい部活に入れば少なくとも部活内に居場所ができるはず。


 という事で入学初日にも関わらず、かれこれ10分以上部活の勧誘ポスターを眺めていた。

 我ながら奇妙な姿だったと思う。ポスターが階段沿いに貼ってあるせいで写真が撮りづらく、結局1階と2階の間をうろうろする羽目になってしまった。


 「思い切って軽音楽部?いや、放送部もなかなか......」

 「君、外部生の子?」

 突然後ろから声をかけられた。舞台俳優のような、よく通った声だ。


 「うわっ!!は、はいそうでして」

 彼女が先輩であることに気づくまでには少し時間がかかった。

 彼女が巨大なクマのぬいぐるみを背負いながらフランスパンを食べていたからだ。

 これを見て動揺したのが私だけじゃないと信じたい。


 「部活で迷ってるんなら着いておいで。可愛い新入生のために教えてあげよう。君にピッタリの部活をね。」


 言われるがままに変な先輩の後をついていくと、『相談室』という部屋に着いた。


 「連れてきましたよ部長!!」

 「ええ、ご苦労様。ところでそのぬいぐるみは?」

 「拾いました」

 「返してきなさい」

 「そんなぁ」

 

 変な先輩はトボトボと部屋を出ていった。一体彼女は何だったのだろうか。


 「まずは来てくれてありがとう。私の名前は犬飼時雨いぬかいしぐれ、ここの部長よ。」


 握手した瞬間、上品なオーラがひしひしと伝わってきた。間違いない。この人は真のお嬢様だ。

 金髪ロングの時点で令嬢かギャルだろうと思っていたけれど、前者で良かった。本当に。


 「ど、どうも......あっ、私は」

 「如月凛香、でしょう?」

 「え、知ってるんですか」

 「勿論よ。......なるほど、説明がまだだったみたいね。私たちは秘密新聞部。あらゆる秘密を調査、管理することでこの学校の平和を守っている組織よ。」


 何が何だかよく分からないけれど、私が求めている『ちゃんとした部活』では無いことだけは確かだった。うん、適当な理由をつけて帰ろう。それが良い。


 「お気持ちは嬉しいんですが......まだ他に興味のある部活があるので」

 「ちょっと待ってちょうだい」


 そう言うと彼女は棚の中から高級そうなクッキーの缶を取り出した。


 「話だけでも聞いてもらえない?そのお菓子も好きに食べていいから。地域限定も含めて全種類のアルフォートが揃っているわ」

 

 箱の中にはざっと数えても15種類以上のアルフォートがあった。

 こんなお嬢様みたいな人もクッキーの缶に別のお菓子を詰め込むんだと思うと、少し親近感が湧いてきた。


 「まぁ、そこまでおっしゃるなら」

 「ありがとう。貴方も忙しいでしょうし単刀直入に言わせてもらうわね。実は私は超能力者なの。貴方にもその素質を感じる」

 「そういう感じかぁ」

 「待って、帰らないで!人手が足りないから部員になってほしいって言いたかったの!」


 さっきまでの気品が嘘のように感じる。焦りというものが人をこんなにも変えてしまうとは思わなかった。


 「だって怪しすぎますし......」

 「怪しいことは認めるわ。でもやましいことはしていないの。何なら仕事に応じて報酬も出るわ。非公認の部活だから掛け持ちもOKだし」

 「非公認ってのがもう胡散臭いんですが」

 「大学のサークルみたいなものだと思ってもらえれば良いわ。非公認でも活動してるとこ結構あるでしょう?」


 何だか気の毒になってきた。しかしこんな先輩のために高校生活を棒に振るわけにはいかない。


 「もし入ってくれたら知りたい情報を何でも教えてあげるわよ。学食の裏メニューから気になる男子の恋愛事情まで幅広く取り扱ってるから」

 「......ヤバそうだったらすぐ辞めますからね」

 「それは!入部してくれるって意味でいいのよね?」

 「他に良い部活が無ければ」

 「え〜」

 これが私と秘密新聞部の出会いだった。

 この時の私はまだ知らなかったのだ。彼女がただのお嬢様ではないことを。

 そして、この選択が後に学園全体を大きく巻き込んだ争いに繋がることも......


 今はまだ、誰も知らない。






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