短歌「一杯」

 もう一杯いっぱい

 すすめてませ わせしは

 花弁かべんかべた べにさかづき





 ✿ ✿ ✿


 桜の花びらが浮かんでいた

 紅の付いた盃を差し出した きみ。

「もう一杯」と言って

 わたしに寄越した。

 そんなに わたしを酔わせたいのか。


 わたしは すでに きみに酔いしれているというのに。

 花を散らしたのは きみではないか。

 どれだけ わたしが きみを求めても

 きみは 決して わたしになびかない。

 それなのに まだ わたしを酔わせるというのか。



 ✿ ✿ ✿



 桜の花びらが浮かんだ盃

 それを 風流と見るか

 散った花を受け入れろ、とみるか

 散った花でも愛でろ、というのか


 あなたの告白は散りましたのよ、

 と暗に回答を示しているのか。


 あなたの思いを受け入れたくても受け入れられない。

 置屋の娘の哀れな運命

 囚われの遊女


 盃を差し出したのは 本心からか 偽りか



 はてさて、

 どんな意味でとりましょうか。




 どれをとっても哀しい歌。

 悲しさを妖艶だと云ってはくれませぬか。




 ✿ ✿ ✿











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