超強敵⁉ 氷炎淫魔将軍と百合の花園!(5/5)
「何なんですかあの馬鹿2人。馬鹿みたいに強いのに、馬鹿な所為で自滅しましたよあの馬鹿2人」
あの戦いの後、悪に堕ちてしまったかのように思わせる堕天隷姫エクリプス・フィンブルの変身を解除しに貰いに実家に戻り、その実家で居候している女淫魔メズキメの助力によって忌々しき姿から解放された後に、そんな言葉を言い放った。
「面白い子たちでしょう? 面白かったからついつい四天王権限を使って部下にしちゃったのよ。あの子たちって魔界の住人とは思えないぐらいに心が綺麗だったから」
「心って……まさか、あの2人が魔法少女っぽいとでも……?」
「そう! いいわよねぇ軍服ワンピースの魔法少女! 武器が銃って言うのも本当にに良い! 同じ四天王友達のウルツァイトちゃんに銃を作らせるよう何度も説得した甲斐があったわ! それに双子って言うのも魔法少女ポイント高いとは思わない⁉ 運命感あるわよね運命! 魔法とは対照的な武器と服に身をつつみながらも、魔法少女らしい攻撃を! それも息ぴったりな連携で繰り出す彼女たちって魔法少女適正があると思うのよねぇ……! しかも属性とか特殊技能とか尊さの塊でしょあんなの! 姉が妹を守り、妹が姉を守る! あぁ尊ぇ尊ぇ! どうしようもないぐらいに頭がアレなのが欠点だけどそれも尊ぇ尊ぇ!」
いきなりそんな熱弁をしてくる魔王軍四天王の彼女に対し、私は思わず目頭を押さえかけてしまった。
戦闘後の私の身体を労わるようにメズキメは私に作り置きされていた緑茶を作ってくれていたので、それを啜りながら彼女の魔法少女トークを適当に聞き流す。
ちなみに当のメズキメはと言うと、座布団の上でお茶を啜っている私とは対照に台所の空間をせわしなく、けれども一切の無駄がない動きで次々と料理のおかずを作り上げていきながら、余裕綽々と言わんばかりに背中を私に向けながら調理しながら会話を楽しんでいる。
おかしい。
あの時、彼女と戦った際よりも早い速度で料理を作っている彼女は一体何なんだ。
「……いつも思ってますけど。メズキメのご飯って美味しいですよね」
「料理は私の数少ないまともな趣味なの。こう見えても私は貧民出身なのよ?」
「貧民って、貴女が? 噓でしょう?」
「本当。偶々腕っぷしだけが強かったから、完全実力主義の魔界で重宝されて、こうして四天王になっただけ。魔界って強さが正義のつまらない世界なのよねぇ。この世界みたいに太陽がないから真っ暗で、作物も育たない寒くて暗い世界だから、皆が皆、安心して暮らせるためにも武功を立てたがったり、作物を奪うために異世界を侵略してる。そんなどうしようもない世界なの」
思いも寄らない彼女の過去話を聞けるとは思わなくて、思わず動揺してしまった私ではあるけれども、彼女が言う情報が正しいのであれば先ほど戦闘したサキュバスの双子姉妹が魔王軍の中でも高い位置にあるのも理解できたし、一週間前に戦ったあのスライムがどうしてあんな残酷な事をしでかしたのかも理解できてしまう。
この世界には、人間は環境で作られるという俗説があるけれども、魔族の価値観が余りにも違っているのは、そういう背景も関係している気がした。
「……とはいえ、あの頭の酷さは、ちょっと。いや、あの強さは認めますけれど……もし私がメズキメと同じ立場でしたらあぁいうイロモノは絶対に部下にはしませんよ。何で倒れた敵の目の前でサルになるんですか、馬鹿なんですか」
「サキュバスよ? サキュバスなら戦闘後に性交なんて普通普通。私だってフィンブルちゃんにえっちな事をしたでしょ?」
「あいつら私に性交してくれなかったんですけどっ⁉」
「あら、フィンブルちゃんはリリスとリリムに双子おっぱいサンド百合プレイされたかったの?」
「はぁっ⁉ 誰がそんな爛れていやらしくて破廉恥な事をされたがっているって言うんですかっ⁉ 違いますからっ! 全然っ! 本当に違いますからっ! 負けてえっちな目に遭わされたいってそんなの正義の魔法少女失格ですよっ⁉」
「そのまま悪に堕ちちゃってもいいのよ? リリスとリリムと同じぐらい可愛がってあげる」
「私が悪堕ちしたらあの馬鹿2人の面倒を見ないといけないじゃないですか⁉ そんなの嫌ですよ⁉ あんなのツッコミがいくらいても足りませんよ⁉ 私をノイローゼにさせるつもりですか⁉」
私が悪堕ちしちゃいけない理由がまた増えた気がする。
あれを例えるのなら、別の教室のクラスメイトだから『面白い』で済むのであって、同じクラスの、しかも隣の席だったら『面白い』と思う暇すら絶対に無いだろう。
そんな愉快な感情を覚えるよりも先に『もう関わりたくない』という徒労感にも似たような感情に胸がいっぱいになるに違いない。
例えるのなら……そう、○○ちゃん係だとか、そういうの。
「……絶対やだ……」
「案外、フィンブルちゃんと彼女たちは相性がいいと思うのだけどねぇ。そうだ、いっその事、彼女たちを光堕ちさせて一緒に魔法少女ユニットを組むっていうのは?」
「死んでもお断りです。私にも光堕ちさせる相手を選ぶ権利ぐらいはあります。というか、氷属性の彼女と私とで属性が被ってます」
私は反論として何も考えないままに言の葉を発したのだが、その瞬間に今まで軽快に鳴り続けていた包丁の音が消えた。
もしかして、私は何かしてはいけない失言をしてしまったのか、と先ほどの発言内容を振り返るものの、これと言って思い当たる節がなかったので、台所にいる彼女の表情を見てみようと思った訳なのだけど……そこにいたのは啞然とした表情を浮かべているメズキメなのであった。
「メズキメ?」
「……フィンブルちゃん。貴女、自分の属性が氷だって……いや、氷しか使えないって本当に思ってるの……?」
「……え?」
━╋━━━━━━━━━━━━━━━━╋━
「ぐわーっ⁉ なのだわーっ⁉」
先の戦場である都内の公園から遠く離れた路地裏に少女の声が響きまわると同時に、凄まじいまでの爆音が辺りを埋め尽くす。
「……い、痛いのだわ……! ……地面に思い切り頭をぶつけて痛いのだわ……!」
空から飛来してきた少女は全裸であった。
普通の人間なら誰しもが持つような日用品を収納するバックすら持っておらず、両手には何もない状態のまま、一糸まとわない産まれたままの姿で天から堕ちた少女には羽根が生えており、見る人が見れば天使と思うかもしれない。
だがしかし、青髪の彼女の名前はリリス。
リリスは魔王軍に所属する女淫魔ことサキュバスであった。
彼女は先ほど起きた戦闘の最中に敵対していた魔法少女の全力の攻撃により、遠く彼方まで飛ばされてしまい、今こうして東京にある路地裏のコンクリートの上に大きな穴を空けて倒れ込んでいる。
「……そ、そうなのだわ……! リリム⁉ リリムは何処……⁉ リリムは無事なの……⁉ リリム! ねぇリリム! いるのなら返事しなさいのだわ!」
辺り一面をきょろきょろと不安げな表情を浮かべながら、周辺を見渡す彼女であるが、その視線の先に彼女が探し求める愛妹の姿はない。
恐らく、先ほどの魔法少女が放った爆撃によってリリスと同じように、けれどもどこか別の方角にへと吹き飛ばされてしまったのだろう。
彼女、リリスは基本的に頭が足りていない少女ではあるけれども、だからと言って自分の近くにいない妹に何か危険な目が襲っている訳がない、と甘く考えられるほど思考能力が無い訳ではない。
彼女は地面に直撃してもなお意識を失わなずにいれるほどの強靭な肉体を有する魔族ではあるが、流石に頭が強打されてしまった衝撃によって軽い脳震盪を起こしてしまっており、直立してもまっすぐに立てない状態であった。
だけども、それでも頭の中はそんな痛みの事なんかよりも、世界で1人だけの妹のことだけで一杯一杯だった。
万全の状態でないのにも関わらず、彼女は背中から生える羽根を広げ、妹を捜すべく東京の空を飛ぼうとした――。
「おやおやおやぁ……! これはラッキーですねぇ……! 私、フィンブル様に寄生体がやられてしまって困っていたんですよねぇ……?」
飛ぼうとした彼女の手脚と羽根が、暗闇から伸ばされた粘液状の触手によって、一瞬にして絡めとられる。
「なっ……⁉」
空中に飛び立つ筈だった身体はまったく逆方向の地面に、引っ張られる。
地面から飛び立とうとしたリリスは、いつの間にか地面の上に浮かび上がっていた水たまり……いや、スライムの身体にへと引きずり込まれていく。
「ス、スライム……⁉ は、離せなのだわっ! 同じ魔族でしょう⁉ 早く離すのだわ……!」
「いやですねぇ、同じ魔族の、それも敗北者のよしみじゃないですかぁ。ですからぁ、敗北者同士、一緒に協力してフィンブル様を倒しましょうよ、ねぇ?」
先ほどの戦闘の影響で体力的余裕が残されていない女淫魔の美しい裸を、青色のスライムが包み込む。
足も。
太股も。
腰も。
腕も。
首も。
耳も。
下から上へと、スライムはまるで捕食するようにサキュバスの身体の表面を包み込んでいく。
「……やだ、やだっ、やだぁ……! リリム、リリム……! 助け――」
助けて、と。
その言葉が口から出るよりも先に、意志ある粘液が無慈悲にも彼女の口を塞ぐ。
もう、彼女の助けを求める声が響く事は無い。
「……ふふふふっ……! 前の寄生体よりも強力な身体を収穫できて本当に幸先がいい……! んーっ、良質なエーテルですねぇ……! まずはたっぷりこの身体からエーテルを吸い尽くしてぇ……! その後にたくさん溺死させかけていたぶってぇ……! 酸素欲しさに私に懇願してもう二度と私に逆らえない身体にしてぇ……! 身体の支配権も奪ってぇ……! 私の命令をちゃぁんと聞いてくれる素敵な宿主に仕立て上げよーっと……! こいつはイイ声で絶対泣くなぁ……!」
スライムの体内という牢獄に閉じ込められた青髪の女淫魔は、言葉を発せらず呼吸すらままならない粘液の中で涙を浮かべ、空いた口からどんどんスライムが流れ込み、抵抗という抵抗が出来ないまま粘魔の虜囚になってしまった。
もう、彼女は自分1人の力でこの牢獄から絶対に抜け出せない。
全身をスライムに覆われた彼女は、実験動物がホルマリン漬けにされたかのように、ぷかぷかと液体の中で力なく浮かぶ事しか出来ない。
海に堕ちた鳥が、二度と海の中から出られないように。
「……それが終わったらぁ……! あのクソみたいな正義の味方とリベンジマッチ……! 初代魔王の身体を乗っ取ってぇ……! 私が一番偉くて強い存在になるからぁ……! 待っていてくださいよぉ、フィンブル様ぁ……! 今度は人質20人なんかじゃ済ませませんからねぇ……!」
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