超強敵⁉ 氷炎淫魔将軍と百合の花園!(4/5)

「……くっ、殺せ……!」


「殺す? 冗談は止めてほしいな魔法少女。僕と姉さんは不用意な殺生をしない主義でね。それに君はこれから僕たちと一緒に気持ちいい事をする宿命だ。古くから敗者は勝者のものだ。丁重に大切に扱うとも」


「それは本当にそうなのだわ。おかげ様でこちらのエーテルは大量に浪費してお腹がペコペコ……どこかの誰かさんで補充しないとなのだわね……?」


 敗者として地面に這いつくばり、動けない身体の唯一動いてくれる瞳で、青髪と赤髪の軍服ワンピースを身にまとったサキュバス達を睨みつける。


 足は凍って、動けない。

 唯一の武器は、遠く離れた場所に飛んでいる。

 口は空いているが、体内の残存エーテルは無い。


 戦えないどころか、逃げることすらも許されない窮地に私は立たされていた。


「ふぅん? 生意気な目をするのだわね? わたくしはそういう目をする相手が大好きなのだわ。その目をする貴女をいっそ凍らせて氷像のコレクションにするのも乙なのだわ」


「そうかい、僕は逆だな。そういう目をしている相手を女の子の目にするのが好きでね。炎は別に相手を焼いて痛めつけるだけじゃない。さぁ、僕の淫熱の炎でその残った理性を蕩けさせてあげよう」


「そうなのだわ? 永遠に惨めな姿を遺し続けるのは素敵なのだわよ?」 


「リリス姉さんは美人なのに物騒だね。僕は姉さんのそういう所、好きだけど」


「そのセリフ、何度も聞いた所為で聞き飽きたのだわ。ま、無理に残酷になれとは言わないのだわ。リリムは根が優しいから仕方ないけれど、出来ればいつまでも優しい性格のリリムでいて欲しいのだわ」


「はは、これは手厳しい。ま、姉さんが望むのなら僕は残酷にも優しくもなれるから安心してほしいな」


 まるで眼前に敵なんていないかのような、日常の一風景を敗北者である私はまじまじと見せつけられている。


 動こうにも青髪の女淫魔リリスが放った氷が崩れたりだとか溶ける気配もなく、私は氷の戒めから脱するべくもがくしか手段が残されていない。


 故に今の私は例えるのなら、蜘蛛の巣に囚われた蝶。

 このまま為す術もなく眼前にいる捕食者たちに一方的に食されてしまうのを待つだけの惨めな存在――。


「……リリム……」


「……姉さん……」


 そう、今の私は惨めな存在だ。


「……姉さんって、呼ばないで欲しいのだわ……いつもいつも人前では姉さんって呼ばれるの、本当はいつもいつも胸がチクってなって苦しいのだわ……」


「……うん、いつもごめんねリリス……」


 あれ? 今から私が性的に襲われる筈だったのでは?

 流れ的にもそうだったのでは?


「……リリスに名前で呼ばれると、胸が熱くなるのだわ……」


「……僕の方がその何倍も熱いよ、リリス……」


「……リリム、アレ、して?」


「……僕も、したかった……」


 わぁ、近親者同士でキスしてるぅ。

 親しみのキスではなく、恋人同士のキスしてる。

 指と指が絡み合ってる。

 舌入れてる、舌。

 うわ、キスの時間なっが……すっご……。


 思わず固唾を飲み込んで見守ってしまっていたけれど……すごいなぁ、サキュバス。


 あの破廉恥な生き物、あるいは空飛ぶ猥褻物で有名な彼女らは私たち日本人のモラルの数千倍先の未来に生きてる。


 まさか、戦闘に敗北したら双子姉妹丼を見せられるだなんて思いもしなかったけれども。


(……そう言えば、こいつらすっごい馬鹿でしたね……)


 恐ろしきかな。

 あいつら馬鹿という理由で、何となく納得しかける自分がいた。


「……わたくし、リリムの熱を感じたいのだわ……」


「……僕もリリスの冷たさを昨日ぶりに感じたいな……」


「……いじわる。それ、いつも気にしてるのに……」


「……ふふっ、リリスは可愛いからいじめたくなるんだよ……」


「……いじめないで欲しいのだわ……もっと優しくして欲しいのだわ……」


 うわぁ、服を脱ぎ始めた。

 どっちの乳もでかいなぁ。

 サルじゃん。ここまで来たらこんなのサキュバスじゃなくてサルじゃん。

 発情期のサルだよ、こんなの。

 というか、何で私がこんなのを見せられる羽目になっている訳なの?

 おかしい、うんおかしい。

 そういうえっちな事は、私にされるべきなのでは?


 ……って、それだとまるで私が負けてえっちな事がされたいって思っているみたいではないか。


「……おーい。おーい、あの、2人とも。誰か忘れてはしてませんでしょうか?」


「……リリム、リリム、リリム……!」


「……リリス、リリス、リリス……!」


「おーい。いいんですかー? 私のエーテルがすっごい勢いで回復されてますよー? このままじゃ不味いですよー? 逆転されますよー? また不意打ちされますよー? いいんですかー? またぶっ放しますよー? おーい。聞いてるんですかー?」


「……んぁ……! だ、駄目なのだわ、リリム……! これ以上されたらエーテルが……!」


「……駄目、なんだ?」


「……駄目、じゃないのだわ……もっとして欲しい、のだわ……」


「……素直な姉さんは可愛いね……いつも素直でいればいいのにね……?」


「……す、素直なところを見られるの、は、恥ずかしいのだわ……」


「……ここには僕たちしかいないよ、姉さん……?」


「……わ、分かったのだわ……素直に、なるのだわ……」


「気持ちいい?」


「……うん……」


「僕のこと、好き?」


「……大好き……」


 何度も大声で呼びかけたが、返事はなかった。

 完全にあの2人は、2人だけの世界に入り込んでいた。


「何ですかね、コレ」


 何だろう。

 一体、何を見せられているんだろう、私。

 私にはもう両親がいないので一生永遠に体験する事はないのだろうけれど、父と母が同じ布団の上でそういうところをしている所に偶々出くわした気分って、多分コレなのだろうか。


 とはいえ、先程までゼロだった私のエーテルは僅か1分で全回復し、私の足を縛り付ける氷を吹き飛ばし、いつでも臨戦態勢に移れる状況になった。


 だが、それでも彼女たち……それも青髪のサキュバスはどういう理屈は分からないけれども氷属性ならば何でも無効化にするだなんていうインチキを有している。


 すなわち、不意打ちにするとしても最大火力の【魔槍・氷柱】の威力は皆無。

 出来る手と言えば、魔杖で後ろから全裸の2人をまとめて串刺しにする事ぐらいか。


(……なんかそれって魔法少女っぽくないのでは?)


 キスしている2人をまとめて串刺しにする。

 うん、それってかなり魔王的では?


(却下。いくら効率的とは言え双子姉妹を串刺しにするのが絵面がアレです。いや、元はと言えば勝手に発情するあいつらが悪いだけですけれども……って、妙ですね? 何といいますか、彼女のエーテルの流れがさっきと違うような……? 弱くなってる……?)


 まじまじと彼女たちの姉妹愛を観察していると、気づいてしまったのだが、青髪の氷属性を操っては無効化させてくる女淫魔の全身から迸るエーテルの流れが妙なのだ。

 

 というのも、直感的に今【魔槍・氷柱】を放ったら大ダメージを与えられそうな、そんな直感がなんとなく――。


(あぁ、そう言えばエーテルが無くなりそうって言ってましたね。なるほど、あの特殊能力はエーテル量に左右されるという訳ですか。流石に無限は反則ですものね。となれば、今の彼女たちに【魔槍・氷柱】を十二分に防げる手段がないという事ですか……)


 となれば、先ほどの戦いで私が最初に取った手である耐久戦というのは中々に良い線を行っていたのかもしれない。

 結果としては、私の集中力が切れてしまった事による敗北だった訳だったけれども。


(……であるのなら、集中力を切らした彼女たちに必殺技をぶっ放しても何の問題はありませんね!)


 さっきから無視されて思うところがあった私は全力中の全力のエーテル流を渦巻かせては姉妹愛を深め合う彼女たちから距離を取り、巨大な黒紫色の氷槍を多数作り上げ、数千もの氷の刃の切っ先を彼女たち2人に向けて、放った。


「【魔槍まそう】――!」


「……ところでリリム? なんだか寒くないのだわ? 気のせいなのだわ?」


「……安心して。どんなに寒くても僕が暖めてあげるよ……」


「【氷柱つらら】――ッ!」


「ぎゃああああ⁉ 久々に喰らう氷属性の一撃なのだわァァァ――⁉」


「ぐわああああ⁉ おのれ! 敵は僕並みの天才頭脳派と見える! 僕たちが性交している最中に攻撃するとは……なんて頭が良いんだァァァ――⁉」


 無数もの爆発を引き起こし、ついでにお代わりの氷槍を投入させて、更なる爆発を引き起こすものの、彼女らの断末魔はじつに余裕というものがあった。


 そして――。


「リリムゥゥゥゥゥウウウウ!!!!!!!」


「リリスゥゥゥゥゥウウウウ!!!!!!!」


 爆発に巻き込まれた姉妹2人の絆は爆風によって引き裂かれ、素っ裸の状態でそれぞれ別方向の空に向かって吹き飛び、青空に飲み込まれては綺麗に光る星になって飛んで消えた。


(……あ。ちょっとだけ無効化結界が残っていましたか……悪運があるヤツらですね……)


 傷を癒した彼女たちとまた相まみえるかもしれない。

 そう思うだけで、私はため息というため息を隠せなかった。

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