超強敵⁉ 氷炎淫魔将軍と百合の花園!(1/5)

「フィンブルちゃん! ねぇフィンブルちゃん⁉ 絶対に入るなって言われたフィンブルちゃんの部屋のお掃除を勝手にしたのだけど、これは一体どういう事なのかしら⁉」


「ヒモの分際で家主の部屋に上がり込まないでください、というか何をやっているんですか魔王軍四天王メズキメ。それに今の私は仏壇の両親に報告をしているのですから少しは空気を読んでください」


 学校が無い休日の昼はこうして10年前に亡くなった両親の仏壇の前に座り、アイスを備え、溶けてしまえば勿体ないからという名目で溶けかけの美味しいアイスを1人きりで食べるのが日課になっている……筈だったのだが、どうした事か正義とは真反対の存在である悪の存在が私の聖域に入り込んできた。


「何よこの作品たちは⁉ 解釈違いよ! 本当に解釈違いよ! 魔法少女が敵地に潜入捜査してそのまま戦闘員化する悪堕ちモノ! 敗北した魔法少女が裏カジノのバニーガールとして働かされてしまう悪堕ちモノ! 洗脳調教で悪堕ちしてしまう魔法少女悪堕ちモノ! 最終決戦で敗北した魔法少女が敵の親玉に洗脳されて愛人兼最高幹部にされちゃう悪堕ちモノ! フィンブルちゃんの性癖が偏りすぎてるわ! もっとバランスよく性癖を摂取しなさい! 正義の味方なんだから悪役の人間が魔法少女にえっちに逆レイプされちゃうモノを買いなさい! はぁ⁉ 自分で言っておいてなんだけどそんなビッチは魔法少女じゃないわよ!!! 解釈違いよ!!!」


「そんな食生活みたいに言われても。別にいいじゃないですか、どうでも」


「よくない!!! 魔法少女は絶対に悪堕ちなんかしないの!!! そんなの解釈違いなんだから!!! フィンブルちゃんは悪堕ちじゃなくて光堕ちモノにもっと興味を持ちなさい!!!」


「……うるさいですね、この光に脳を焼かれたロリコンサキュバスが……」


 巨乳の身体を上からジャージを着て、ついでにエプロンを着て、私の部屋に隠しに隠していたゲームや雑誌を持って来てそんな事を宣う美人の名前はメズキメ。


 そこら辺を歩いている人間とは違い、彼女は文字通りの人外……俗に言うところのサキュバスで、色々とあって私の家にヒモとして居候する事になった。


 つい最近まで家事も何もしなかった筈だったのに、私のズボラが過ぎる食生活を目の当たりにした彼女はいつの間にやら我が家の家事を全てやるというヒモに……もとい専業主婦みたいな事をしてくれるお手伝いになっており、魔王軍四天王としてのプライドなんてものはそこら辺のゴミ箱に捨てて、とっても世話焼きで面倒見が良い女性に変貌を遂げていたのであった。


「これは一種のメンタルトレーニングです。予習と言っても過言ではありません。貴女たち魔王軍は私を初代魔王エクリプスとして覚醒させるのが目的でしょう。その為にも、その、……えっち……な事を私にすると聞きました。であれば、どういう手段で悪堕ちさせるかは知っておくに越したことはありません」


「めちゃくちゃ早口で、顔を赤らめながら言っても説得力がないのよねぇ」


「もちろん、亡き父の遺産を娘である私が責任を持って管理しているという側面もありますが。これとはもう2歳の頃からの付き合いです。もはや警視総監だった父の顔がこのゲームのパッケージに思えてなりません」


「お亡くなりになられた父親の顔が悪堕ちしてエロいコスチュームに身を包んだ元魔法少女って、お父さんも死んでも死にきれないと思うわよ……?」


「もちろん、母の遺産としてそういう悪堕ち魔法少女のコスプレ道具も娘である私が引き継いでいます。父と母がそういうプレイが好きだったと祖母が語っていました。正義の存在である筈の自分が悪に屈するのが気持ちいいだとか、正義の存在である片割れを悪に堕とすシチュエーションは何だかゾクゾクするだとか何とか」


「フィンブルちゃんの家って女淫魔よりも女淫魔してないかしら……? ちょっと倒錯的な家庭環境で育ったのね……」


「私は夫婦の営みに口を出すような娘ではありませんので。とはいえ、もういなくなった両親にとやかく言う口もありませんが」


 私は空になったアイスのカップ2つにスプーンを持ち、仏壇が安置されている和室から離れようとその場から立ち上がり、広い居間に移動しようと決心したのと同時に雑誌やゲームを手にしたメズキメが私の後をついてくる。


 折角だったから、両親の遺品である猥褻物わいせつぶつをメズキメから預かって、仏壇に備えておくことにした。


 亡父の写真の横に悪堕ち魔法少女凌辱モノのゲームパッケージを。

 亡母の写真の横に悪堕ち魔法少女洗脳モノの雑誌とコスプレ道具を。


 うん、一見すると中々に地獄絵図だったけれども、天国の両親は生前に好きなモノと再び相まみえる事が出来て喜んでいる事だろう、多分。


「……これってひょっとしてボケなのかしら……それとも本当にそうなのかしら……フィンブルちゃんって天然というか何というか……センスが独特というか魔王的というか……色々とヤバいわよ……」


 どうしてか私にドン引きするメズキメを差し置いて、仏壇を安置している和室から出た私は背後からついてきたメズキメに言の葉を投げかけた。


「ところでメズキメ、無断とはいえ私の部屋の掃除をしてくださってありがとうございました。貴女が我が家に来てから庭の雑草が全部消えましたし、埃という埃がまったくありません。貴女の働きは十二分にお給金を出しても良いものだと思うのですが……」


「だから、お金なんて良いってば。これは私が好きでやっている事。だって魔法少女が住む家は綺麗で、誰もが住みたいような素敵な空間でないといけないもの! 魔法少女は生きとし生ける女の子の憧れなんだから!」


「貴女の持論はさておき、私は凄く助かっているのでその魔法少女への偏愛っぷりには目を瞑ります。難点を言うとするのなら、食事はせめて冷たいモノが良いのですが……」


「だーかーら! あったかい食べ物を食べないと身体に悪いでしょうが!」


「だからと言って熱々のグラタンを食べる為に1時間も掛けるのは流石に忍びないのですが」


「その理屈が通るのなら、炎系の魔族や魔獣が来たらどうするのよ⁉ 魔法少女ならどんな相手でも果敢に立ち向かうでしょう⁉ グラタンを全部食べないと倒せない類の敵がやってきたらどうするって言うのよ⁉ これもまた予習演習!」


「何ですかそのおかしい理屈は」


 とはいえ、彼女の好意に甘えに甘えまくっているのが現状だ。

 今にして思えば、蒼天冷姫フィンブルとして戦い続けて3ヵ月もの間、食事は基本的に私が好きな冷たいモノばっかりであったので、私の内蔵という内臓は冷えに冷え切って弱っていたのかもしれない。


 現に彼女が用意してくれた食事を食べるだけで私の身体は芯から強くなっているような気がしてならないというか、最近は朝の目覚めがとてもよかったりするし、魔法少女活動で溜まりに溜まったストレスが少し軽減して、最近気になっていたニキビが消えたりした訳なのである。


「……そう言えば、最近は魔族の襲来がありませんね。あの外道スライム襲来から1週間近く経過したって言うのに、1度も魔王軍の襲撃がありませんね」


「それはそうでしょうねぇ。今頃、魔王軍本部は軍の再編成だとかしていてバタバタしているんじゃないのかしら。魔界に戻っていないから全然分からないけれどもね」


「まぁ、どうあれ街の人々が平和に過ごせるに越したことはありません。現に私も休日を利用して蒼天冷姫フィンブルとしての特訓を道場でやれている訳ですしね」


「ふふっ、フィンブルちゃんのそういう所、推せるわ~」


 そう言いながら背後から胸を触ってきた彼女に私は思わず情けない悲鳴をあげるも、すぐさま蒼天冷姫フィンブルに変身しては錫杖を用いて彼女を遠慮なくぶっ叩いた――が。


「ふふっ、残念外れ。とはいえ反射神経がとっても良くなってきたわね。ついでに身体の感度も、ね?」


「こ、このっ……!」

 

 悔しさと恥辱で思わずわなわなと震える私であったが、そんな私とは対照的にクスクスと笑うセクハラ女淫魔であった。


「い、いいですかっ……⁉ 今のような事を他の人にやったら私は全力で貴女を倒しますからね……⁉ こんな事をしていいのは私だけなんですからね……⁉」


「はーい。了解了解。私の最推しのお願いとあれば聞いてあげる。私はフィンブルちゃん専用のセクハラお姉さんだからね……? 安心して、フィンブルちゃん以外には浮気しないわ……私はこう見えてもカタい女だもの……」


「うるさいっ! 誰が貴女に好き好んで身体を触らせると――ひゃあ⁉」


「ふふっ……隙あり」


 ぶんぶんと錫杖を振り回しても全然当たらないどころか、錫杖を外す度にお仕置きと言わんばかりに胸を何度も触られ、蒼天冷姫フィンブルのミニスカートはめくられ、太ももを舐めるように撫でられる。


 蒼天冷姫フィンブルとして能力をフル活用して、周囲のエーテル速度を限界ギリギリまで減速させるも、それでも彼女の神速の速度を落とさせるにはまだ足りていなさ過ぎて、私は為す術もなくメズキメに全身を触られるがままであった。


「あっ、やめっ、あ……こ、腰が……だめ……やめて……もう……触らないで……」


 そして、10秒も経たないうちに私は両足で立てなくなり、ぴくりぴくりと痙攣を起こしながら両膝を木造の床の上に置き、同時に手から武器である錫杖を手放してしまう。


「はーい、またフィンブルちゃんの負け。これで19勝目。一体いつになったらフィンブルちゃんは私に勝てるのかしらね?」


「……っ! まだっ……! 貴女は0勝もしてないでしょう……⁉ 私はまだっ、負けを認めてなんかっ……!」


「ふふ、そうね。そういう事にしてあげる」


 息を荒げながら、彼女に再びあごを摘ままれ、くいっと無理矢理に私の顔を彼女の方にへと向けさせられてしまう。


「あぁ、今日も推しが尊ぇ尊ぇ……! このままキスしたらまた舌を嚙まれると思うとゾクゾクしちゃうわねぇ……! また舌を嚙まれて、氷のような視線で睨みつけられてぇわぁ……!」


「離せっ……! この……変態っ……!」


「失礼ね、私は貴女の大ファンなの。だから、貴女がこれから先の戦いでも勝てるように特訓をしてあげるのがファンの役目でなくって……?」


「これのどこがっ……特訓だと、言うんですかっ……!」


「気持ちいい? って聞くまでもないわね。だって私は淫魔の女王。魔界で一番そういうのが得意な存在なのだから」


「だ、黙れぇ……!」


 恥辱でわなわなと全身を震わせることしか出来ない私だが、琥珀色のメズキメの瞳の中に写っている私の表情は、本当に、正義の味方とは思えないぐらいに、だらしなく蕩けていた。


「ふふっ、このまま本番とイきたいところだけど……時間ね」


 メズキメが余裕そうにそう言葉にするのと同時に、私も遠くに現れたのであろうその存在に気がつく。


 それから遅れて私のスマホから、聞く人を不安に駆らせるような無機質な人工音声が響きまわる。


。当地区に緊急警報が発令されました。直ちに当該地区よりの避難を開始してください。繰り返します。当地区に緊急警報が発令されました。直ちに当該地区よりの避難を開始してください』

 

 先ほどまで動かなかった腰に喝を入れ、メズキメの手すらも払いのけ、私はすぐさまに現場に向かおうと足場のエーテルを急速操作させて魔王軍が現れた現場に直行する――そう決心した瞬間。


「いってらっしゃいフィンブルちゃん。今回の敵、油断したらすぐにやられてしまうぐらい本当に手強いから。特にに気を付けなさいね? もしも、上手くやれたのなら……ご褒美、あげるわね……?」


 飄々とした彼女から、やはり飄々としたそんな言葉が贈られて。

 それは一体どういう意味なのだろうか、と胸の中で先ほどの彼女の言葉を反芻しながらも。


(……ご褒美って……多分、そういう事ですよね……)


 勝手に頭の中に浮かんでくる悶々とした感情を抱えたまま、私は魔王軍が現れたのであろう現場に向かおうとしながらも、先ほどの続きを脳内で勝手に妄想してしまっていた。

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