蒼天冷姫フィンブル大苦戦⁉ 堕天隷姫フィンブル 闇の誘惑!(1/6)

『当地区に緊急警報が発令されました。直ちに当該地区よりの避難を開始してください。繰り返します。当地区に緊急警報が発令されました。直ちに当該地区よりの避難を開始してください。繰り返します――』


「やべぇ! 警報が出ちまったぞ⁉ 蒼天冷姫フィンブルが来るぞ! あのメズキメ様を行方不明にさせたバケモノが来るから逃げろテメェら……って! あぁもう来てる! 何で⁉ 蒼天冷姫フィンブル何で⁉ いつもは10分ぐらいかかるのに、どうして最近は数秒で来るんだよ⁉ おいテメェら! ウルツァイト様から頂いた魔獣を盾に逃げろぉ!」


「……ごちゃごちゃとうるさいですね。逃げられると思わない事です」


 先日の魔王軍四天王のメズキメとの戦いで獲得したエーテルによる高速歩法で現場に数秒で足らずで到着した私はげんなりとしながらも溜息を吐き出し、巨大なタコを思わせるような触腕を有するバケモノ1匹に、戦闘員たち複数人へ視線を向ける。


 今回も昼食の最中の、しかもアイスを食べようとしたその瞬間にやってきたものだから、私のイライラゲージはマックス。


 いつも纏うような白色の和風の魔法少女の衣装を纏い、慣れ親しんだ白銀の錫杖を用いて、まずは先に頭数を減らす為に魔王軍戦闘員たちの氷漬けを開始する。


「うわぁ凍る⁉ だけど……へへっ……腹部に淫紋を浮かばせる魔法少女はエロいぜ……最後にフィンブルの姿が見れて良かっ――」


「~~~っ⁉ どこ見てるんですかっ! さっさと凍りなさいっ!」


 怒りと恥ずかしさの余り、思わず全力全速でふざけた発言をした戦闘員の周囲一帯の空気に含まれたエーテルを用いて、人間1人を氷漬けにさせる。


 しかしながら、思わず全力で自分の力を使ってしまった影響か――どくん、と身体の下腹部から淫らな熱が全身に送られ、襲われてしまう。


「……っ……! しまっ……ぅ……ぁっ……! ……くっ……! 凍れ……!」


 私は戦闘員との戦いの最中であるというのに、先日の戦い以降からずっと自分の下腹部に浮かび続ける淫紋付近から流され続ける邪なエーテルの流れを一時的に凍結させる事で淫紋の毒のような魔力の浸透速度を遅らせる。


「……くぁ……ぅ……このっ……!」


 とはいえ、浸透速度を遅らせるだけであって、完全に淫熱そのものを遮断する事は不可能だった。


 もちろん、それは淫紋だけではない。

 先日の戦いから3日後……あの時に施された淫呪はまだ残っており、今も尚、私の身体を蝕んでいる。


「……ぐふふ……青色リップのフィンブルちゃんかわいい……喋る度に青色の唇が動いて、可愛いかったフィンブルちゃんが子供から大人になったみたいな色っぽさがあって新鮮だなぁ……! 口から絶対に良い匂いを出しているフィンブルちゃんがマジでエロい……!」


「……ひっ……! いやっ……! 黙って……! お願いですから黙ってください……! 意識させないでっ……! そんな目で私を見ないでっ……! そんな目で見られたら折角鎮めた淫紋が……またっ……!」

 

 口づけで付けられてしまった淫魔の朱色の口紅によって、勝手に体内エーテルを放出させ変身維持をさせなくさせていたが、いざ動きを減速させると口紅の色は血のような色から青色の口紅へと変質した。


 個人的には口紅が青色になった所為で、余計に私の白い肌を更にいやらしく……しかも非日常的な色で彩らせている事に憤慨を隠せない。


 本当はこんな化粧なんてしたくもないのに……そうは思っていても、この青の色にしないと私は変身さえままならない。


 それどころか、それでも勝手に蒼天冷姫フィンブルとして戦う為に必要な魔力が少しずつ外に、口から異性を焚きつけるような魔香を放つ化粧品にへと変換されてしまっており、私の戦う為の力はこうしている間にもどんどん消えていく。


「……ぐへへ……! 首輪をつけているフィンブルはそそるなぁ……。やれ悪魔だの氷鬼だと言われたフィンブルもメズキメ様に可愛がられて、為す術もなく首輪を付けられたと思うと興奮するぜ……!」


「……うるさいっ……! わ、私はっ……為す術もなく首輪を付けられた訳じゃないっ……! 必至に抵抗したけどっ……それでも付けられてしまっただけでっ……! 可愛がられてなんか……されてないっ……!」


 首の周りをチョーカーのように囲う首輪を物理的に凍らせる事で白色に装飾品のようになっているが、それでも氷の中から輝く紫色の光が消える事はない。


 今も尚、首輪は私をあの堕ちた姿にするべく、首元から少しずつ淫らなエーテルを流し込んでいる。


 油断してしまえば、この首輪から汚染されたエーテルを強制的に急激に流し込まれ、私を強制的にかつ半永久的にあの姿にされてしまう……そう思っただけで、既に凍らせた筈の下腹部の淫紋から強い熱が送られる。


「……くっ……ぁ……! こ、こんなの……まともに、戦えないっ……!」


 まさか雑魚の戦闘員の言葉ごときで過去の経験を思い出さされ、応急処置を強いられて戦いを中断させられるだなんてことは今までに1回も無かった。


 むしろ、言葉を扱わない魔獣やモンスターよりも、言葉でなじってくる戦闘員の方が強敵のような気がしてならない。


「ん? 何か動きが鈍くなっているような……まぁいいや、ヨシッ! チャンスだ! 捕獲部隊! ぇ!」


「え? ……きゃあ⁉」


 意識が散漫としていた私の身体に、遠方から何かが直撃する。

 形状が分からなかったが、すぐさまそれは私の肢体を囲んで結束する鉄の輪となり、私の両腕を縛り……続いて第2の拘束輪が私の両足の太股あたりを縛り、今の私は数字の1の字のように直立の状態に強いらせる。


「……しまった、武器が……!」


 いきなりの事で右手で有していた錫杖を地面に落とし、慌ててそれを拾おうとして、今の自分が両腕が使えないという事実に今更気づき……それを認識した瞬間、今度は私の口に拘束輪が押し込まられる。


「んぐっ……⁉」


 口の中に鉄の輪が入り、私に抵抗の言葉を奪うついでに、顎が固定し、喋ったり口を閉じたりすると言った簡単な行動に、人間としての尊厳も奪っていく。


「んんっ……⁉ んぐっ、んぅ……!」


 歯ぎしりが出来ない所為で、余計に身体中の拘束をほどく力を出せなくさせられたというのもあるけれど、全力でもがいてみても、思いのほか拘束輪は固く出来ており、体内のエーテルを全力で開放させないととても壊せないような強度を誇っていた。


(だけど、そんな事をしたらせっかく沈静化させたアレが暴走してっ……!)


 全身を巡るエーテルを活性化させれば、せっかく凍らせて機能停止にさせた淫呪もまた活性化してしまう。

 

 そうなってしまえば、恐らく今の私では目覚めた淫呪によって弄ばれ、変身を維持することすら難しくなってしまう。


「ぐへへ……! よっしゃ! フィンブル確保ぉ! 無駄だぜフィンブル! これは四天王のウルツァイト様が魔獣を捕獲する為に開発した拘束兵器! 魔獣の魔族なのにそんなモノを作るだなんて、意味の分からない人……まぁ、ロボだけど! ともなくコレはそう簡単には壊れねぇが……念には念だ! 念のために触手で縛って……! さぁさぁ触手大先生やっちゃってくださいよぉ!」 


 海の中にいるタコの触手を何十倍も更に大きくさせたような、触られたけでも鳥が立ってしまいそうなグロテスクな赤い触腕が動けない私の元にへと、じわりじわりと近づいていき、ついにその触手が私の肌を絡めとり、ねばねばとした体液が私の肌とコスチュームをどんどんと汚していく。


(……こんな三流の、雑魚ごときにっ……! なんで私がこうも苦戦しないといけないんですかっ……⁉)


 もじもじと身体をくねらせている今の私は状況が状況なだけに、拘束輪の上に乗せている胸を強調させて左右に揺らして誘惑しているかのよう。


 そんな事をしている自分の惨めさに思わず泣きそうになってしまって――私は厭々ながら、あの禁断の力を使う決心をせざるを得なかった。


(……本当に、本当に嫌だけどっ……! へ、変身……だ、堕天隷姫……エクリプス・フィンブル……っ!)


「な、何だぁ⁉」


 心の中でそのワードを言葉にするのと同時に、私を中心にエーテルの嵐が巻き起こると同時に、私の身体を闇が包み込んでは無力化しようとした戒めたちを膨大な魔力で吹き飛ばす。


 更には周囲に蔓延る戦闘員たち数十人を瞬くすら間もなく、蒼天冷姫フィンブルとは比べ物にならない程の速度と規模で凍らせる。


「……ちっ、流石は魔獣。しぶといと言いますか、生き汚いと言いますか。潔くやられてくれないと言いますか……その図体に見合うだけの生命力はあるご様子で」


 迸る強大な冷気と、重力を無理矢理に強めたと錯覚するような圧が対峙する山のように大きい触手魔獣に生命の危機を与えさせる。


 その原因は……間違いなく、その魔獣とは比べ物にならないぐらいに小さな存在である私なのであった。


(相変わらず、露出が激しいですねこの服は……まぁ、裸よりかはマシですか)


 蒼天冷姫フィンブルの白鳥を思わせるような純白のコスチュームから打って変わって、石油によって黒く染まってしまった白鳥を思わせるような深い黒色のコスチュームに身を包み、露出度の高さに辟易しながらも、今の私と同じように変色と変質をしてしまった錫杖だった武器……ハルバート状の魔杖を手にし、それで軽く空を撫でる。


 ――そんな遊びみたいな動作1つで、巨大な触手を携える怪物は横に真っ二つになる。


 断末魔をあげながらもすぐにその口は氷によって閉ざされ、紫色の体液が地面をこぼそうとするよりも先に傷跡と血液を瞬間的に凍らせ、肌呼吸をさせる前に肌という肌を全て氷で覆わせ、生命活動を維持し続けようとする臓器を凍らせ、凍結した事で砕きやすくなった臓器という臓器を全て内側から粉砕させる。

 

 巨大な氷像と化した怪物は、こうして塵一つ残らないまま瞬殺された。

 

(巻き込まれた民間人は……いませんね。戦闘員たちも……全員氷漬けにさせましたから無事ですね。本当なら魔王軍に与した戦闘員なんて救いたくはありませんが、同じ人間を殺すのは流石に……)


 周囲を見渡し、新たな敵がいない事も確認した私は安堵の溜息を吐いて、お約束の言葉を口にした。


「……変身解除」


 しかし、この悪趣味としか言いようがない衣装が変わる事はなかった。

 まるでそれが本当の私の姿ではないか、と言わんばかりに私の変身は解けやしなかった。


「……やはり無意味ですか。この変身を解くには、やはり彼女の協力が必要という訳ですね」


 首輪からどんどん汚染されたエーテルが送られてくるが、魔王の転生体としての側面を強めるこの闇の戦闘フォームの私にとって、そんなものは慣れてしまえば――慣れたくなんかないけれど、無理矢理に慣れさせられて――極上のエネルギー源でしかなかった。


 皮肉なことに、闇の魔王としての力を振るう際は淫呪の全てが私を更に強くさせる供給源でしかなく、逆に蒼天冷姫フィンブルとして活動をする方が弱く、やりづらいとまで感じてしまう始末なのだ。


 この姿に慣れないあの時は身体中の無数の淫呪に呑まれていたが、この忌々しい姿になることで膨大なエーテルを操れるようになってしまった今、身体中の淫呪を超速度でエーテル濾過しては解毒させ、有益で新鮮で膨大なエーテルとして取り入れて使用する事が可能になった。


 言わば、蒼天冷姫フィンブルとしての私を苦しめて弱体化させ、周囲に痴態をまき散らす淫呪は、堕天隷姫エクリプス・フィンブルになった私にとっては外付けの強化パーツでしかないのだ。


「……こんなのっ……! まるで私に闇に堕ちろと言わんばかりの辱めじゃないですかっ……!」


 ぎりり、と悔しさから思わず歯ぎしりをしてしまう。

 そうだ、私は正義の味方。

 正義のヒロインで、魔法少女。


 私は氷と光の力を振るって人々を守る蒼天冷姫フィンブルであって、決して魔王軍が望むような闇氷の力を振るう初代魔王エクリプスなんかじゃないのだ。


 だから、蒼天冷姫フィンブルがいくら弱体化されても、私は蒼天冷姫フィンブルとして戦い続けるのだ。


 ――だけど。


「……っ」


 こうして悪の衣に身を包んでいる以上、私が蒼天冷姫フィンブルでいられる訳がないではないか。


 現に蒼天冷姫フィンブルとしての自分では戦闘員たちのような三下を全員倒すことすら出来ず、堕天隷姫エクリプス・フィンブルにならないとどうにも出来ない始末。


 私はもう蒼天冷姫フィンブルとして、2度と戦えないのだろうか。


 思わず泣きそうになってしまったけれど……絶対に泣いてやるものか。

 こんなところで泣いてやりたくなんかない。


「……私は蒼天冷姫フィンブル。そうです、私は正義の味方の蒼天冷姫フィンブル。……初代魔王エクリプスなんかじゃない……! どんな姿になったとしても、絶対に悪の味方なんかにならない……! 私は悪の敵であり続けるんだからっ……!」


自問自答を繰り返す私はそう結論づけて、足元のエーテルの流れを操って、その場から離れるべく瞬間移動を行った。


 そして、私が辿り着いた場所はと言うと――。




━╋━━━━━━━━━━━━━━━━╋━




「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!! おかえりフィンブルちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」


「……うるさいです」


「ごはんは私を食べる⁉ それとも私と一緒にお風呂する⁉ それとも私とセッ――!」


「……うるさい」


「今日も頑張って性欲に耐えて悪の組織を倒しちゃうフィンブルちゃんがマジで尊過ぎて嬉しいのぉ……! うへへぇ……! 闇の誘惑に悶えながら、それでも必死に自分を保ちつつ、光と闇がフュージョンした超パワーで相手をかっこよく葬るフィンブルちゃんがマジで尊ぇ尊ぇ……! 遠隔から推しの姿を見るのマジでヤバいわよぉぉぉ! 私もフィンブルちゃんの必殺技を喰らって絶命したいわぁぁぁ!」


「あぁもう! うるさいうるさいうるさい! 本当にうるさいですね貴女は⁉ 鼻血を出さないでっ! 私の身体にまとわりつかないでっ! どさくさに紛れて私の胸に尻を揉むなっ! あぁもう本当にすばしっこい……! セクハラするしか能がないんですかこの変態淫魔っ!」 


「ぐへへ……! フィンブルちゃんはまだまだ反射能力に欠けているわねぇ……! これはお姉さんが鍛え上げないといけないだわぁ……! 役得だわぁ……!」


「な、何を勝手な事を……んっ、あっ、やめっ……! そこ、駄目……! 触る、なぁ……!」


「うふふっ。誰も思わないでしょうね……? 学校から抜け出して、格好良く敵を倒した正義の味方のフィンブルちゃんが……まさかこんなえっちな衣装を着て、その衣装に相応しい声と表情をしているだなんて、ねぇ? それもまさか、悪の存在の魔手によって一方的に、ねぇ?」


「……や、やめ……なさいっ……! お願いだからやめてください……! 私はこれから学校に戻らないといけなくって……あんっ⁉ んんっ……! キス、もうやだぁ……! 歩けなく、なるからっ……!」


 魔王軍構成員の討伐を終えた私は黒色の魔装束が脱げない状態のまま、自宅にへと戻り、この魔装束の戒めを解いてくれる存在にへと怒りと涙に……少しだけの期待……そんな様々なモノをごちゃ混ぜにした視線をヤツに向け、私は精一杯に正義の味方として出すべき言の葉を振り絞った。


「……私が自宅に帰ったきた理由なんて分かっているでしょう⁉ 早く私のこの変身を解きなさい、! それをしないのでしたらこの家から追い出しますよっ⁉」


「はいはい、了解了解」


 私が魔王軍四天王のメズキメにそう命令するのと同時に、彼女は私の首輪に触れる……それと同時に堕天隷姫エクリプス・フィンブルとしてのコスチュームは霧散し、私はようやく学生服の姿に戻れた。


「はい、変身おしまい。ふふっ……制服姿でもその首輪に口紅に淫紋、とっても似合っているわねぇ……?」


「う、うるさいっ……!」


「分かっているとは思うけれど……初代魔王エクリプスは女淫魔。女淫魔はえっちなのが大好きな存在。そして、フィンブルちゃんはその転生体」


「ち、違っ……! 私はそんな貴女みたいに汚れた存在なんかじゃ……!」


「でもフィンブルちゃんが魔王軍にえっちな事をされたらフィンブルちゃんの中にある初代魔王の魂が刺激されてしまうのは確定事項。もちろん、こうして闇の力を使えば使うほど、えっちな事をされればされるほど、堕天隷姫エクリプス・フィンブルでいればいるほど、フィンブルちゃんの中にある闇の力は段々強くなって――」


「黙りなさいっ……! 私はどんなことがあっても絶対に、闇に堕ちたりなんかしないっ……!」


「ふふっ……! イイわ! その目! その意志! その光! それでこそ私の推し! 推しが虐められたり曇らせてる姿を見てる間は愉悦していられるけども、推しが折れたりしたらそこで終わりなのよね! 確かに推しが完全に堕ちた姿を見たい気持ちはあるけども……でも折れずに進み続ければまた推しを苦しめたりしたり、曇らせることができるからどんなに苦しいことがあっても完全に折れないでいてほしいのよね! 仮に折れたとしても、最後に立ち上がってくれるなら良しなのよね! 尊ぇ尊ぇなのよね!」


「早口すぎて気持ち悪いんですよ貴女はっ⁉」


「あぁ……フィンブルちゃんの冷たくも愛情のある罵倒が心の中に澄み渡るわぁ……。それでこそ解釈通り。それでこそ私の推し! 私がこの世界で一番に大好きな存在ね……!」


「……だ、大好きって……⁉  な、何言って……⁉ ふ、ふんっ……! お、推しと言えば許されると思わない事ですねっ……⁉ そ、それでは私は学校に行きますが、街の人たちに絶対に変な事だけはしないでくださいねっ⁉ 虜囚である貴女は私が責任を持って管理しますのでさっさと光に堕ちて魔王軍を裏切ってくださいね⁉」


「ふふっ、このままじゃ私がフィンブルちゃんの手によって光堕ちさせられちゃうけれど……どっちが先に堕ちるか、楽しみね?」


「……はっ。私は絶対に悪に堕ちたりなんかしませんので100%貴女が負けるだけですがね。今晩は貴女が好きなご飯と酒に魔法少女アニメを用意してやりましょう。人類が築きに築き上げた叡智の光を前に惨めに負ける覚悟の準備をしておいてください」


「……どうしようかしら。いっそ本当に魔王軍辞めてしまおうかしら……少し揺れかけたけれども、そろそろ行かないと学校の昼休みが終わっちゃうわよ? 魔法少女ならちゃんと学校に行かないと解釈違いなのよね。という訳で気を付けて学校にいってらっしゃいね、フィンブルちゃん」


 いってらっしゃい、という言葉を3ヵ月ぶりに聞いたとはいえ、口にした相手が相手だったので始めは無視してやろうかと思ったけれど、それはちょっとどうかと思ったので。


「……行ってきます」


 そんな言葉を3ヵ月ぶりに、あの戦いの直後に私に降参して、私の捕虜ヒモになる代わりに魔王軍四天王としての活動を全て止めると口約束をしたジャージ姿の敵に投げてやった。

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