大ピンチ⁉ 蒼天冷姫フィンブル 魔王軍四天王の魔手に堕つ!(4/4)
「――ようやく隙を見せましたねっ……!」
私は全身を覆う淫熱を振り切り、慣れないコスチュームに身を包まれながらも地面に落ちていた錫杖を片手で拾い、今出せる限りの全力と魔力を振り絞って、私の身体に跨るメズキメに突き刺した……が。
「嘘ぉ⁉ なんで⁉ どうして動けるの⁉ こちとら最上級の淫呪をいっぱいプレゼントしてるんだけど⁉ 並大抵の生物なら発狂するレベルの淫欲を抱えながら、どうして抵抗するっていう選択肢を選べるの⁉」
しかし、私が突き刺したと思ったのは文字通りの意味での残像だった。
確かに光の速さで動ける彼女ならば、それぐらいは造作もない行為であるだろうし、そもそもこんな不意打ちに頼らざるを得ない時点で勝てる訳がない。
……だけど!
……それでも!
それは負けて良い理由なんかにならない!
「逃がす……かぁっ!」
地面に落ちていた愛用の銀色の錫杖もまた、今の私のように蒼く、黒く、妖艶に光る杖の形状は刺々しいモノにへと変貌しており、まるで槍と斧を合わせたハルバードを思わせるような禍々しい形状になっていて、もはや別物だった。
だが、蒼天冷姫フィンブルとして慣れない錫杖を用いて魔族と戦い続けた日々が無くなるだなんてことはない。
私は周囲の魔力……いいや、エーテルを操る。
今まで適当に魔力と言い続けてきたソレの名称がエーテルであると、どうして断定したのかは分からない。
だれど、どうしてか私はそれをエーテルと呼ぶことを知っている!
この女魔王を思わせる衣装を纏ってから、何となくエーテルの扱い方をどんどん思い出していっている……!
そうだ。
私は知らない記憶を思い出した事に、今ようやく気が付いた!
認めたくはないけれども……この姿の私は蒼天冷姫フィンブルとしての私の何百倍も強い!
なら、その強さを利用するだけ!
私の正義の心がまだ残っているうちに!
「ちょ待っ⁉ えっ速っ⁉ なんで足場のエーテルの流れを操って高速に動ける高速歩法が出来てるの⁉ それ習得に100年は普通にかかる技なんだけどぉ⁉」
「そうっ! ですかっ! 貴女程度の存在が何回もしているものだから、てっきり簡単なものだとばかりっ……! 避ける、なぁっ……!」
「なにこの理不尽⁉ アレなの⁉ 前世の記憶ってヤツ⁉ いや私はフィンブルちゃん相手なら楽勝かもだけど、初代魔王相手に勝てる訳ないじゃない⁉」
「だったら、今すぐに倒れなさいっ……!」
「そんなのお断りね! だって私はまだフィンブルちゃんとえっちな事して遊びたいもの!」
堕天隷姫エクリプス・フィンブルにさせられたからと言って、戦う力が奪われている訳ではなかった。
寧ろ、どうした事か蒼天冷姫フィンブルとして戦っていた時よりも強力な魔力を操られるようになっていた。
多分、それは私が本当に初代魔王の生まれ変わりか何かのおかげで、本来の力が引き出されたおかげなのだろうけれど、今は只々好都合だった。
「くっ……! いい加減、攻撃を避けないで下さいっ……! 正々堂々と、戦えっ……!」
「いーや。私は魔王軍四天王である以前に、淫魔の女王。立ち場的にも戦い方には拘りはあるの。だってサキュバスは皆、平和主義なの。暴力なんて大嫌いで、相手を気持ちよくさせるのが大好き……ほら、まるで博愛精神に満ちた存在でしょ? 見逃してくれない?」
「えぇ、本当にっ! よく出来た詭弁ですねっ!」
「でも、気持ちよかったのは嘘じゃないでしょう?」
「……っ⁉ な、何言って……! ……う、うぅ……! だ、黙りなさいっ……! あんなのっ、全然気持ちよくなんかっ……!」
「ふふっ。すぐに思い出して赤面しちゃうフィンブルちゃんは素直でかわいいわね。愚直で真っ直ぐで、凛々しくて、格好よくて、大人みたいに責任感があるのにまだ子供で、性にもしっかり感心があって、まるで……いいえ、本当に魔法少女なのね、フィンブルちゃんは」
彼女より遅いとはいえ、それでも手も足も出なかった初対面の時よりかは随分と戦いにはなっている。
ヒールが高くて転びそうになっていたのが信じられないぐらい、私は高速での戦闘を行っていた。
要はこれはエレベーターとかエスカレーターと同じ原理だ。
周囲のエーテルを足元に集めて、それを方向性を持たせて、高速で動かさせる。
タネさえ分かれば簡単だが……思いのほか、難しい。
エーテルを操りながら肉弾戦を行うだなんて、ある意味では複合動作の究極で、少しでも操縦に失敗すれば壁に激突したりだとか、バランスを崩した挙句、敵に致命的な隙を晒してしまう事だろう。
だけど、これにはそんなデメリットがあっても無視できるぐらいに有用だった。
どうして今までそんな戦闘方法を思いつかなかったのか。
それさえ出来ていれば、もっと早く街の人を魔族の暴力や恐怖から守れていたかもしれないのに!
「――えぇ、そうです! 貴女が言うように、私は魔法少女! どんな姿になっても魔法少女フィンブルです! 私は人々の為に貴方たち魔王軍から守る為に戦おうと決めたんです! エクリプス・フィンブルだとか、初代魔王だとか、転生体だとか……そんなの、全然関係ないっ! どうでもいいですよ、そんなもの!」
「――ふふふふふっ! イイ! イイわ! やっぱり魔法少女はこうでないと……! 魔法少女は悪や快楽なんかに絶対に屈さないからこそ、魅力的なのよねぇ……!」
杖で殴っては避けられ、突いては避けられ、切り上げても避けられ、そんな攻防を繰り返しつつ、隙を見つけても避けられる。
(……早く、決めないとっ……!)
今は何とか全身を覆う魔装束から絶えず送られてくる淫らな妨害を気力だけで殺しているだけに過ぎず、実を言えば私の理性は本当に風前の灯火だった。
理性を取り戻した私を快楽に従順にさせるべく、いつ淫呪が暴走するか分からない。
だから、早く決着を付けないといけない。
いけないのに!
(うっ……! だ、め……! 意識したら、身体が……どんどん熱く……!)
本当に厄介な呪いだと、私は憎々しげに飄々と躱し続けるメズキメに視線を向ける。
本当に、これさえ、なければ――。
「――ぁ……ぅっ……くっ……⁉」
どくん、と。
今までで一番大きな呪いが、胎動した。
よくも今まで無視し続けてきたな、と言わんばかりの膨大な淫熱が私の身体を包み込み、半ば意地で握り続けていた魔杖を地面にへと落とし、膝が勝手に地面に跪く。
「……ふふっ、チェックメイト、ね」
メズキメがようやく杖を当てられる距離に近づいたというのに、身体が動かない。
快楽を欲している本能が絶対に動きたくないと主張して、理性を蝕んでいる。
このまま彼女の前で無防備な姿を晒せば、気持ち良くなれるのだから抵抗するなと、理性が、本能が、どんどん淫らに染まりつつある。
(……やだ。やだやだ、嫌だ……! こんなところで、負けたくないのにっ……! 動いて……! 動いてよ……! 勝手に気持ち良くならないでよっ……!)
はぁはぁ、と疲れとはまた違った荒い息が勝手に零れ、頭がどんどん淫らでいけない妄想で支配されていく。
(ここで負けたら……! 私は魔界に、連れて行かれて……! 魔王に、させられちゃう……!)
そんなのは嫌だとは思いつつも、私を魔王軍にとって都合の良い魔王にへと調教されるのだろうか、どんな調教をされるのだろうか……そんな負けてしまった未来の事だけしか考えられなくて、その未来を考えれば考えるほど勝手に身体が背徳的な興奮で悦んでいく。
「さて、魔界に連れて行く前に……もう1回キスしよっか。それも本気のキス。淫魔女王の本気のディープキス。このキスで、フィンブルちゃんの正義の心は完全に溶けて消えて……永遠に闇の魔王様になって、私たちのお人形になるの」
あぁ。キスされるんだ、私。
さっきのキスは、本当に気持ち良かった。
しかも、アレ以上に気持ちいいキスをされるんだ。
嬉しい。
悔しいけど、気持ち良くさせられて、今度こそ抵抗できなくさせられるんだ。
「それじゃあ、さようなら。魔法少女フィンブルちゃん。完全に悪堕ちした後も永遠に可愛がってあげるわ」
メズキメは私の口を優しく開けては、口の中に舌を入れ込み、私の舌を絡めては捕らえ、今までに体験した事のないぐらい、気持ち良い極上の快楽を与えてくれた――。
――だから、私はメズキメの舌を、自分の舌諸共、思い切り噛んでやった。
「痛っ……⁉」
心底驚いたと言わんばかりのメズキメは、私から離れる。
快楽欲しさで動けなくなっている私が、快楽に抵抗するだなんて夢に思っていなかったのだろう彼女は口から血を滴らせ、啞然としていた。
「まだ……! 負けてっ、ないっ……! 私は、まだ、負けてなんか……! 例え身体が闇に囚われて、敵に奪われても……! この心だけは悪に堕ちたりなんかしないっ……!」
口から自分の血と彼女の血を流しながら、意地と気力に任せるがままに宣言すると、メズキメは信じられないと言わんばかりに顔の表情を歪めてみせた。
「っ⁉ 嘘でしょ……? まさか、私が与えた快楽が、負けたの……? この淫魔の女王である私が与えた快楽を耐えきったというの……⁉」
「……絶対に、勝つ……! 今! 貴女に勝って! 四天王を全員倒して! 魔王を倒して! この街を守る……! だって私は魔法少女フィンブル……なんだからっ……!」
「私を、倒すつもり? 無理よ。両腕も、両足も、どれも動かせない今の貴女じゃ絶対に無理。もう諦めなさい。死にたくはないでしょう?」
「……貴女を倒せるのなら、死んでもいいっ……! 危険な貴女を放置して、人々を危険に晒すぐらいならっ……! 戦って貴女に殺された方がマシですっ……!」
「――は? は? は? は? ……は。ははは。ははははは。ははははははは……! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
本当に怖い表情を浮かべて、まるで壊れた機械のように同じ言葉を繰り返した彼女は血走った眼で突然大笑いをしては、とんでもない速さで瞬間移動をしてきて、私のすぐ近くにやってくる。
それは今までで見た彼女の瞬間移動の中でどう見ても1番速くて、初代魔王としての力を一部取り戻して強くなってしまった私が反応できないほどの、今までの彼女が本気ではない軽いお遊びだったという事が分からされる程の、とんでもない速さ。
(――あ。死、んだ――)
私は根源的で絶対的な、淫熱を掻き消してしまうぐらいの絶対的な死の恐怖を前にして、いけないとは思っていても、反射的に強く眼を閉じてしまい――。
「は? えっちな表情を浮かべて快楽に沈みそうになりながらも、平和の為に戦おうと快楽を振り切りながら私を倒そうとする推しの姿ってマジで最高では? やだ……! 私の推し、尊すぎ……!?」
「――え?」
「ふふふ……! このまま魔界に拉致されて、えっちな調教をされて魔王に無理矢理されたくなかったら……分かるわよねぇ? 私を貴女のヒモにして。後、サインとか必殺技とか貰ってもいいかしら?」
「――――は……?」
「私、メズキメは! 魔王軍四天王をサボって普通の女の子になりまーす!」
「――――――何、言ってるんですか……?」
本当に意味が分からない。
分からなさすぎて、今まで感じていた淫熱の全てが搔き消えてしまうほどの衝撃を受けてしまった私であるのだが……余りにも予想外の言葉を受けてしまった私は気が緩んでしまった。
気を緩めてしまった所為で、絶えず送られてきた淫呪に気力で耐え続けた神経は限界で、自分の身長の2倍も大きい武器を振り回した所為で腕は棒のように動かなくなり、今更ながら舌に灼熱のごとき痛みが走ってきて。口から血をこぼし――私はたまらず地に伏せた。
疲労困憊の極みに至った私は駄目だとは思いつつも、敵の目の前で瞼が勝手に落ち、意識もまた朦朧となり、深い疲れを癒すべく深い眠りの中にへと落ちてしまったのだった――。
~後書き~
序章までお目通し頂き、誠にありがとうございます……!
ここまでなんと約23000文字。
WEB小説とは思えないギチギチっぷりな文字密度かつ、全然流行りではないマイナーなジャンルかつ、私の性癖という性癖が暴走に暴走を重ねた結果こんな作品が出来てしまった訳なのですが、だからこそ尚更ここまで読んで下さった読者の皆々様には感謝してもしきれません……!
しかし! しかし、しかし、しかし……!
マイナーな悪堕ちのブームは、間違いなく来てるッッッ!!!
以前よりかは世間の『悪堕ち』に関する理解があると、全身の肌で感じておりまする……!
と言いますかですね⁉
私はね⁉
かっこよくて強くて正義感があって真面目という人間の鏡のようなヒロイン様がえっちな服だとか、女戦闘員の服だとか、敵が運営する非合法裏カジノの制服であるバニースーツだとかを、精神だけは善の正義の味方の状態で着せられてしまって、身体が悪に堕ちてしまうという『半堕ち』も大好きなんですよねぇ!
えっちな服を着せられて、戦闘ではなく周囲の視線を気にしたり!
女戦闘員服を着せられて、女戦闘員(先輩)に可愛がられたり!
バニー服を着せられて、働きたくないもないのに働かされたり!
私ァ!
そういうのが大好きなんですよね!!!!!
まぁ欲を言えばそのまま堕ちて欲しいんですけれどもね!
実際に手慰みに【IF敗北ルート・奴隷魔王編】とか、ついつい書きましたが!
ですが、ヒロイン様が諦めたらそこでエロ悪堕ち試合は終了でしょう⁉
ヒロイン様には負けて欲しいんですけど、勝っても欲しいんですよ!
とまぁ、私の悪堕ちへの思いを吐き出した辺りで。
次回以降から、闇の最強無敵フォームになれるという選択肢を持たされた魔法少女が最弱の正義を貫くか、街の人を守る為に闇に染まって段々とえっちになるかどうかで悪戦苦闘する日々のゆるふわ現代ファンタジーの開幕にてございまする。
つきましては、光と闇の魔法少女フィンブルちゃんに『がんばえー!』とか『悪に負けろー!』とか『闇に堕ちろー!』とお望みの良い子の皆様はフォローや★でフィンブルちゃんを応援のほど宜しくお願いいたします。
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