大ピンチ⁉ 蒼天冷姫フィンブル 魔王軍四天王の魔手に堕つ!(2/4)

「は、離して……!」


 そんな強い言葉を口には出せるけれども、実行に移せるほど、私は強くなかった。


 下腹部にいきなり現れた淫らな紋様……淫紋が一方的に与えてくる淫熱で全身を包まれ、手足が動かせない私は魔王軍四天王のサキュバスであるメズキメの支配下にあった。


 手がだらんと下がり、勝手に跪いた脚は笑っていて、ほんの僅かの身動きをしようと上半身を動かしただけで、腹部に現れた朱色の紋様から無視できないほどの正体不明の熱が襲い掛かってくる。


 私の上半身は知らず知らずのうちに、まるで風に揺れる花のように1人でに動いていて、力のない上下運動を本能的に繰り返そうとする。


 その動きは遠目から見れば、まるで誰かに媚びているかのよう。

 当然、勝手に動こうとする身体を理性で何とか縛り付けようと努力はしているのだが、私の理性は女淫魔が目に入っただけで、強風に対して無惨に飛び散らされてしまいそうになる。


 抵抗したいのに、気持ち良くて、抵抗できない。

 地面に堕ちた錫杖を拾うだけという動作が、余りにも難しい。


 普通に考えたら難しい筈なんて無いのに、絶対に無理だと思わされてしまうようなこの感覚はまるで冬の流行り病であるインフルエンザ、いや、それよりもっと酷い病に罹ってしまったかのような悪寒にも似た寒さと熱が私の身体全体をまとわりついて、離れない。


「だーめ。フィンブルちゃんはね? 今から私の魔性の快楽で、悪に堕ちるの。快楽欲しさで私の言う事を何でも聞くような、いやらしい女の子に変身させてあげる」


「……っ! 誰が、貴女なんかの言う事を聞いてやるものですか……!」


 確かに、目の前の相手は私よりも格上だ。

 普通の人間ならば、先ほど私が氷漬けにした戦闘員たちのように、格上の存在の言う事に付き従ってしまうのだろう、が。


「私は蒼天冷姫フィンブル……! 貴女たち魔王軍から人々を守る存在です……!」


「ふふっ、かっこいい。それじゃあご褒美にそのかっこいいセリフを言う口から犯してあげる」


 そう彼女が言うと同時に天地が逆転する。

 気づけば私は地面に優しく寝かされていて、自分の身体の上から女淫魔が座って抑え込むような体勢を取っている。


 私の上にまたがった女淫魔メズキメは細い腕1本で私を組み伏せて、路上に縫い付けた。


「……は、離しなさい……!」


「ふふっ、さっきから口先ばっかり達者ね。可愛らしく頬を紅潮させて、湿気の多い荒い息を吐いて、その凛々しい瞳に力なんて全然ない。まるで初夜への恐怖と期待に胸を弾ませる生娘のようで……敵に絶対見せちゃいけない顔してる」


 遊ばれている。

 そうだ、今の私は彼女に遊ばれている。

 魔王軍最強の四天王である彼女にとって、私の存在はそこらにいる市民たちと然程変わらないのであろう事実をまじまじと分からされている。


「……くっ、言わせておけば……!」


 顔を歪めて、今出せる限りの渾身の力で女淫魔の細腕を跳ね除けようとする。


 魔法少女として活動する為に毎日鍛えた体幹と全身の筋力は、14歳の女子中学生の平均の中の下ぐらいだろうけれど、魔法少女としてパワーアップしている私の身体能力は、何かしらの術式で弱体化されたとしても間違いなく一級品のはずだ。


 それでもメズキメが私の手首を掴む腕や、腰に絡められた脚は、微動だにしないどころか、全然動いてくれない。


 ここまで実力差があるとは思っていなかった魔王軍四天王の一角の片手によって、私は苦もなく押さえ込まれ、それどころか無防備な首筋や太ももを、女淫魔の舌や指が余裕たっぷりになぞられる。


「……ひゃっ⁉」


 知らない。

 軽く触られただけで頭の中が真っ白になるこの感覚は、知らない。

 知らないがゆえに、その感覚に対する対処法も、知らない。


「かわいい。魔法少女として凛々しい顔も大好きだけど、女の子としての顔も本当にかわいいわ。その調子でどんどん素敵になって?」


「……バカにっ、んぅ……しないで……! このっ……! 離れてっ……!」


 自分の頭の上で結ばれた両手はまるで釘でもを打たれたように動かず、必死に腰を突き上げるような動きで真上にいる女淫魔を押しのけようと腰を動かす。 


「あらあら、積極的ねぇ……?」


 メズキメは意図的に、腰を抑える力を抜いていた。

 そのすべすべとした美しい肌が見える膝で私の腰を逃がさないようにしっかりとホールドしたまま、少しだけ、わざと、不自由に出来るくせに、私を部分的に自由にさせる。


 彼女はニマニマと笑いながら、私に抵抗させる事を許していた。


 その抵抗法は、私の腰を情けなくへこへこと跳ねさせる事。 

 私の腰を、彼女の身体に押し当てる事。

 私から、彼女の身体に触れさせる事であった。


「もしも、フィンブルちゃんが凛々しい男の子だったらと思うけれど……残念ね。淫魔女王の名器が味わえなくて」


「そんなのっ、望んでないっ! うぅ……! 離れなさいっ……!」


 誰がどう見ても、遊んでいるとしか思えないような行為で彼女は私の抵抗の意志と、魔法少女としての誇りを、何もかも根こそぎ奪いにきている。


 騎乗位の姿勢は基本女性が優位らしいけれど、ここまで圧倒的なことは今までに読んできた本の中でも滅多になかった。

 

 下の私は、上の彼女に


 そう思うと、抵抗をすること自体がバカバカしく思えてきて……いや、抵抗しないといけない筈なのに……もう抵抗しなくていいのではないのかと、思えてきてしまう。


「……あっ、はぁ……う、うぅ……!」


 それだったら、無意味な抵抗をするぐらいだったら、体力を温存させるべきではないのか。


 そうだ。これは目の前の敵を倒す為に取る戦略的な行為だ。

 そうだ。諦めたと見せかけて相手を油断させよう。

 なんかじゃ――。


「――ッ⁉ な、何を……⁉ 何を考えているの、私……⁉」


「あらら、失敗失敗。催淫の淫呪をそれとなく掛けたのだけど、その力の特典ってヤツ? 簡単な淫呪はシャットダウンされて正気に戻っちゃうかぁ」


 残念と言いながらも、彼女はとっても嬉しそうな笑みを見せてくる。

 なんでそこで嬉しそうに笑うのかが本当に理解できなくて、改めて目の前の彼女が人外の存在であるという事実を思い知らされて、私は思わず身震いしてしまった。


「それじゃお待ちかねの気持ちいいの。いってみよっか」


「な、何を……んぷっ……⁉」


 気づけば、私は彼女に押し倒され、唇を奪われていた。


「んんっ……!?」


 柔らかい両手で頭を押さえつけられ、唇同士の結合を外す事を許さない唐突なマウストゥーマウスに思わず慌てふためく。


 両手で優しく頭を押さえられているというのもあるが、腹部から送られる疼きと口から絶えずやってくる舌の動きの所為で、抵抗しようにもすぐにその意思は溶かされ、抵抗らしい抵抗が一切できず、私はまるでメズキメの恋人のように唇を明け渡していた。


「……あ、ん……」


 風のように不規則に動く艶やかな唇によって、私は気ままに弄ばれてしまう。

 触れ合わせるだけに留まらず、舐めたり、啄んだりと、多種多様な接吻で、したくもない興奮を強制させてくる。


 数多もの生物を魅了し、溶かし、陥落せしめたのであろう魔性のキスを、たった14年しか生きていない私に抵抗できる筈がなかった。


「……ふ、ぁ……」


 不運にも、私はそんな魔性のキスが初体験。

 だけど、これが初体験で良かったと理性と本能が一致させられてしまう。


 相手は同性で、しかも倒すべき敵である筈だというのに、こんな事はおかしいとは頭で分かってはいても、私の身体は唇を重ねる事に夢中になっていた。


 身体が言う事を聞いてくれない。

 身体が自分から快楽を貪っている。


 こんな経験は始めてで、どうすれば良いのか本当に分からなくて、私は本当は抵抗したい筈なのに、気づけば自分から彼女の唇を貪っていて……そうしている最中だって言うのに、彼女は私の唇から


「……え。な、なんで……」


「ふふっ、もっと欲しいのは分かるけれど一旦休憩、ね? そんなことよりも淫魔の女王御用達の口紅の感想はどう……って、折角の始めてのお化粧なのに自分の顔を見られないのはアレね。ほぉら、鏡をご覧なさい? 更にえっちになって可愛くなったフィンブルちゃんの姿を」


 そう彼女が口にするのと同時に、何かしらの魔術を用いて取り出したのであろう姿身を思わせるような巨大な鏡が地面から生え、その鏡面で今の自分の姿をまじまじと見せつけられていた。


 私と彼女の唾液が混じって、糸のように繋がっている事が、先ほどまで私たちが繋がっていた事を否応なしに証明させてくるけれど、問題はそんな事じゃない。


 その鏡の世界にいたのは、女淫魔と同じ淫らで妖艶なルージュで彩られた私。

 直接、彼女の口紅を自分の唇にキスで塗りつけられた姿がそこにあった。


 真白な肌に生まれて初めて塗られた口紅が映える私の姿は、何とも妖艶であり、魔法少女というよりも魔女のソレ。


 鏡に映る自分の姿……淫魔の女王メズキメと同じ化粧を施された私が余りにもいやらしくて、思わず口周りを舌で這わせて口紅を落とそうとするけれど、この魔性の化粧はそんな簡単に落ちてくれやしなかった。


(……この口紅、いくら拭いても取れない……頭の中が……ふわふわしてて……気持ち、いい……)


 この化粧は人間が使うような日常品ではなく、女淫魔であるサキュバスが使うような化粧品……すなわち、呪具にして、淫呪。


 このルージュには女淫魔の呪いが大量に込められており、私はその呪いによって更に身体が熱くさせられていた。


 淫らに輝くルージュを無理矢理に塗らされ、無理矢理に唇を奪われ、強制的に発情させられて、荒い息を何度も零して涙と汗を流している私の顔はとても魔法少女は思えない。


 そう、今の私はまるで淫らな事が大好きな女淫魔のようで――。


「……違う……私は、そんな存在なんかじゃ……」


「どうかしら。女性器みたいな色をした唇をして、誰でもいいからキスがしたくて堪らないフィンブルちゃんは誰がどう見ても、魔法少女のコスプレをした女淫魔じゃない?」 


「……違う……ちが……ちが、う……はず……?」


 弱々しく何度も頭を横に振って、その弱々しさに比例するような声量で否定する。


 だけど、果たして、その否定は心からしていると断言できるだろうか。

 鏡に映る私は下腹部に子宮を模した淫らな紋様を浮かべ、怪しく光る唇から液体を垂らしていて、言い訳のしようが無いほどに浅ましい姿は誰が見ても正義の味方だなんて思えないだろうに。


(……駄目……身体の中の魔力が勝手に……変なものに変えられていく……)


 体内を駆け巡る魔力という魔力が、蒼天冷姫フィンブルとして戦う為の力という力が、施された呪いによって、強制的に快楽にへと変換されていく。


 当然ながら、魔力には限界がある。

 魔力が無くなれば、魔法少女として変身する事が不可能になってしまう。


 例え戦う意志があったとしても、魔力が無くなれば変身という魔法は泡のように消えていく――そう、今の私のように。


「ふふっ。気持ち良すぎて変身が解けちゃったわね、フィンブルちゃん」


「……あぁ……」


どうしようもない絶望と快感が全身を包む。

 変身が解けてしまった私は制服姿にさせられてしまい、抵抗が出来ない一般人に戻ってしまったが、下腹部の淫紋に呪いの口紅はそのまま。


 青黒いロングヘアは変身前の状態にさせられてしまった事で、ただの黒いショートヘアにさせられて、誰がどう見てもそこら辺にいる無力な中学生が情けない表情を浮かべながら、敵の手に堕ちている。


 そんな状態を打破すべく変身し直そうとするも、魔力が空になっている時点で無意味な行いでしかない。


 まるで汚らわしい女淫魔が魔法少女になるのは許さないと言わんばかりに、蒼天冷姫フィンブルの変身術式は作動しない。


「フィンブルちゃんの身体が私たち女淫魔とお揃いになったところで……次はお着換えの時間」


「……お着換え……?」


 これ以上何をされるのだろう、という不安と期待が入り混じった声を発し、メズキメに熱い視線を送ろうとしてしまっていて……思わず頭を振って、煩悩を吹き飛ばす。


 けれども、頭と下腹部から絶えず送られてくる淫熱が再び私を煩悩だらけにして、鏡の中の私はまるで恋をする乙女のような表情を浮かべている。


 そんな表情を浮かべてはいけないと思えば思うほど、背徳感で身体が更に熱くなって、冷静な思考というものを絶対にさせないように作り変えられてしまう。


 抵抗したいと頭で思っているだけで、抵抗をしなかったらという未来を勝手に想像させられて、その想像の中にある快楽に期待しているが為に身動きという身動きが取れない……いや、取ろうとも思えないのだ。


「えぇ。フィンブルちゃんが悪に堕ちたって、誰が見ても分かるような姿にさせて、蒼天冷姫そうてんれいきっていうかっこいい魔法少女名も捨てて、えっちな淫魔の少女に生まれ変わるの」


 ふざけるな。

 そう声を大にして言いたいのに、口から出るのは湿気を孕んだ荒い息と、妖魔の口紅の甘ったるい匂い。


 駄目。

 駄目な筈なのに、身体が言う事を聞いてくれない。


 私の身体、闇に堕とされたがってる。

 こんなの駄目な筈なのに。


 私、また気持ちいいことをされるんだ。

 そう思うと、抵抗の声を出そうという発想が泡のように弾けて消えて、何でもいいから快楽が欲しくなってしまう。


「はい注目! この首輪が今日からフィンブルちゃんの新しい変身道具だから大切にしてね? もちろん壊したら、めっ、よ? まぁ壊したいと思っても一生壊せないだろうけれどね」


 彼女がおどけた口調でそう言葉にして、いつの間にやら取り出した首輪を私の視界に入れてくる。


 その首輪は真っ黒で、首輪の中心に紫色に怪しく光る輝晶のようなモノが嵌め込まれていた。


 首輪と名称されているけれど、今のところは首輪のような円形ではない。

 恐らく、私の首の後ろまで回された後に、2つの金具同士がぴったりと嵌め込んで、がっちりと繋がって、首輪としての正しい形になって、私の首元から永遠に外れなくなるのだろうか。


 そんなモノ、絶対に着けたくない。

 だけど、絶対に着けられるのだろう。

 だって、今の私は変身をしておらず、絶対に抵抗できないのだから。


「はい、動かないでね。コレ、皮膚に挟まったら痛いから」


 丁寧に、本当に丁寧に、彼女は私の首回りに冷ややかな金属の輪を嵌め込んでいく。

 少しずつ、本当に少しずつ、私は眼前の女淫魔の所有物にへとされていく。


「ふふっ、動かなくて偉い偉い」


 ひんやりした金属の冷たさに心を奪われて、そして絶えずにやってくる淫熱でまた身体が熱くなって、不意にやってきた彼女の褒め言葉の所為で頭がおかしくなって、意識がまとまらない。


 現にこうして、メズキメの手によって首輪を付けられようとしているのに、私は抵抗せず不動のまま、彼女の好きなようにされていた。


 そして――かちゃり、と首輪が嵌まった音が、耳元のすぐ近くで無慈悲に鳴り響く。


「はい、おしまい。じゃあ、悪に堕ちたフィンブルちゃんは相応しい自分に変身、してみよっか」


「……や、やだ……」


 嫌だと言いながらも、首輪の紫結晶が光るのと同時に、すぐさまその言葉に従わねばならないという無視できない隷属を促すような命令を思わせる魔力が首輪から送られて、全身が怪しい魔力で満たされて支配されてゆく。


 そんな意味の分からない隷属感に操られ、無理矢理に回復させられた魔力を用いて、まるで私は義務のように、私は首輪を嵌められたのと同時に頭の中に入り込んできた、知らない筈なのに知っている名前を口にしてしまう。


 駄目。

 絶対に駄目だ。

 その名前を口にしたら、私が、蒼天冷姫フィンブルとしての私が、致命的に終わる。


 駄目……! 

 変身したら、駄目……!  

 駄目、なのに……!


「……へ、変身……堕天隷姫だてんれいきエクリプス・フィンブル……っ!」







~~~

悪堕ち系統は作者の性癖なので、次話の内容もちょっと、えっち、かもしれません。


元・蒼天冷姫フィンブルもとい、堕天隷姫エクリプス・フィンブルちゃんに『がんばえー!』とか『悪に負けろー!』とか『闇に堕ちろー!』とお望みの良い子の皆様はフォローや★でフィンブルちゃんを応援のほど宜しくお願いいたします。

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