缶詰の缶詰 前半

 広大という事だけが分かる真黒の空間。


 オレンジ色の光が差されると、その中から段ボールが壁になって浮かび上がってくる。


 自分の背丈を越える程度の高さではあるが、先ほど通った通路にあったものと似たような棚に載せられているのでどこか既視感を覚えてしまう。

 だが、地震か何かで段ボールが軒並み地面に散らばって、中身が散乱しているものもあるので、状態は一番酷かった。

 

 「……これどれくらいあるの?」

 

 「多分、お店の並んであるやつの10倍くらい。かな?」


 そう月見里の疑問に答える東台の声がやや上ずっていた。


 ランタンで照らしても先に壁が映らないのを見るに、東台の言ったぐらいでは済まないのだ。


 決して狭くはなかった表の規模とは桁違いのギャップに、自分の頭から氷山の一角という言葉が出てきた。

 どこかで聞いた話によると水面に浮かび上がっている氷山は全体の一割だという、それならばここに埋蔵されている本は一体どれくらいあるのだろうか。

 

 「もうそれ、氷河の一角じゃん」


 月見里が独り言ちた。そう言う表現もむべなるかな。

 

 「あーね。宝箱とかもありそう」


 東台もそう言葉にした。そう言う表現はむりあるかな。

 

 「まぁ、いろいろと時間がかかりそうだが、まずは回ってみるぞ」


 「OK。みんな、足元気を付けてね」


 一番気を付けるべき東台がそう言って話を締めくくった。


 だが、行うべき事はまだ始まってもいない。いつ終わるかさえ定かではないので、出来ることならさっさと始めたい。


 しかしながらも、指先程度しか把握出来ない暗闇の中。事を急いで何か失敗でもすれば挽回もクソも無く、フードコートで見た死体の仲間入りだ。

 

 まずは急がば回れの精神で危険が無いかの確認。次いで逃げ道の確保が必要である。

 どれくらいの広さがあって、ついでに児童本が保管されている場所が分かれば万々歳。 


 (まずは入ってきたドアの位置を把握だ)

 

 こちらは左手で壁を触り、沿って行くように進んだ。

 右でもよかったかもしれないが、どこかの本で迷路に入った時は左手の方に進んでいくとゴールに着くと聞いたことがあるのでとりあえずの左である。


 流石に迷路みたく入り組んではいないが、何分か歩いてライトを照らした先にようやく端の壁を見つけられたというぐらいには巨大だった。


 きっと、壁から手を離してしまえば、自分の歩いている方向がもう分からなくなってしまうだろう。


 壁伝いに出口の方向を確認しつつ一周してみた。


 暗いのでいまいち空間が捉え慣れないが、少なくとも今まで入って来た倉庫の中で最も大きなものであることには違いない。少なくとも表の書店の4倍ぐらいの広さはあるだろうか。


 氷山のような割合ではなかったことに多少胸をなでおろしたいところだが、ライト一つ照らしてみれば、鼠色の棚の中や、緑色の平べったい地面に似たようなサイズのビニールに包まれた段ボールが妖しく光り続けるのを見るともはやどこから探せばいいのか途方に暮れる。


 しかし、棚のところに東台の言っていたラベルのようなものがちらほらと見えるので雀の涙ぐらいの希望はなんとか繋ぎ止められたようだ。 



 「あっ、元の場所に戻ったみたいだね」


 「そうだな」

 

 後ろにいる東台がそう言って指さしたのは入ってきたドア。


 どうやら、一周回り切ったようである。


 ならば、ドアは入ったところを含めて2つしかなかったらしい。ただ、裏手に続くドアは商品を運ぶためなのか若干大きいようだった。


 裏手から帰りたいところだが、やはりあのバツ印が気になるのでその選択は取りがたい。


 何事もなく暗闇の中を歩けているので、もはや分かり切っていることではあるけれども、『あれ』の姿がないことに関しては十分な安心材料ではあった。

 ただ、それは広大な砂漠の中で1リットルの水を発見したような気休めよりちょっとマシな程度なものだが。

 

 ならば、後はラベルに希望を託して、ネコタチを見つけるだけである。そうして、はやる気持ちで白く輝くそれに近づいた。


 本の題名かそうでなければ本のジャンルか、何か有用なものが書かれているのか。


 しかし、現実は無常だ。 


 「なんだこの数字」


 目に映るのはそんなイージーモードみたいなヒントではなく、英数字の羅列だった。

 

 おそらく、段ボールの中身を差す何かだと思うが、これを昔流行った暗号通貨の番号だと言われればすぐ納得してしまうだろう。それだけ、何が何だか分からない。


 「東台。この数字の意味わかるか?」


 「いやぁ、ごめん。昔は覚えてたんだけど。今は分かんないや。でも、これピッするやつで確か中身が分かったはずだから……」


 東台がそう言うも、自信が無いようで尻すぼみに言葉が終わる。苦々しい顔を浮かべながら、頼りげなくラベルの横にあるものに指を差した。


 それにライトを照らしてみると、どうやらバーコードリーダーのようであった。

 おそらく、何か専用の機材で読み取るのだろうが、そんなものを持ってるはずもなく――。


 「その機材がどこにあるかは――覚えてるか?」


 「ごめん、全然覚えてないや……」

 

 一周回って構造をくまなく確認した分、ある程度の覚悟はしていたが、ほんのりと残っていた最後の期待がこうも打ち砕かれると、全身にめぐる血がぬるくなったかのように脱力感を覚えてしまう。

 

 「ここで寝泊まりして探さないといけないのかな?アハハ……」


 東台はまた苦く笑って冗談ぽく言うが、状況が状況なだけにその結末をあらかじめ暗示させられているように聞こえてしまう。


 時計を見ればもう2時間ぐらいは経ったらしく、後一時間たてば俗にいう昼食の時間で、今風に言うなら陽が落ちる6時間前になっていた。

 

 「3時間経ったら、ドアにバリケード敷くぞ」


こちらはそう言って、2人の前に時計をかざした。表情は違うものの、どちらともあまり良いものではない。


 「ああ、やっぱり……はーい、仕方ないですねー」


 東台はそう軽口を言って肩をそれとなく落とすが、月見里は凍り付いたかのように頬を強張らせていた。


 広々した空間だが、点くべき照明も高い天井で姿さえ見えず窓も無い。


 彼女の嫌いな閉塞的な暗闇よりも一歩飛び越したような見知らぬ空間のなかで一夜を過ごすとなればそんな顔をしてしまうのも無理はない。


 管理室に戻るのもいいかもしれないが、月見里の恐怖心を差し引いても見知らぬところを不用意に動くのはあまりしたくない。


 「中に入っている本はジャンル別に分かれるのか?」


 「うーん、確かそうだった気がする」


 「分かった。それならまずは手分けして段ボールを開けるぞ、児童本らしきものは全部ここに集めてくれ」

 

 しかし、すぐに見つかるならばそれに越したことは無い。


 東台の言う通り同じジャンルでまとめられているのか、それともバラバラなのかは分からないが、段ボールを一つづつ調べていくよりかは効率がいい。

 

 早速とばかりに、先ほどと同じ要領で左真ん中右と3人分かれて探してみる。

 正直、どこにいても危険性は変わらないので、東台提案のじゃんけんで場所を決めることになった。


 そして、自分はじゃんけんポンという言葉と共に、比較的散乱している本の数が多い左の方の棚を担当することになった。

 

 月見里の気分転換という目的を含めてやってみたが、自分はどうやら勝負運が悪いらしい。次いで悪いのが月見里で、東台が一番運がいい。


 東台に負けて右を担当することになった月見里の悔しそうな顔が妙に可笑しくてたまらなかった。


 改めて自分の目の前に段ボールの山を見ると探す気力も萎えてしまうが、後々の事を考えると動かざる得ない。


 地面にあるのは一旦無視して、近くにある段ボールをつかみ取り、包装を裂いて開けてみる。

 こういう時、ナイフを持ってきていてよかったと思えるが、それがビニール袋を開けるためだとなるとまるで引っ越しの作業をしているようで複雑な気分だ。


 ハズレた。中にあるのは辞書だった。


 見た目は重厚で国語辞書かと思ったが違う言語で書かれているようであった。英語辞典かと思ったらどうやらそれの亜種版らしい。

 大きな書店らしくマニアックなものも売っているようである。少しばかり内容が気になるが、本当に引っ越し気分になるのでやめておきたい。


 今は日本語でさえ死滅していくというのに、今更外国の言葉を読んで何の意味があるのだろうと虚しい気持ちさえ湧き出てくる。


 そんなものはさっさと段ボールに閉まって隅の方へと追いやった。


 「クソ、今度は国語辞典か」


 そして、地面のものを拾い上げてみれば、外国の言語ではなかったがまた同じような辞典だった。


 東台の言っていた通り、ジャンルごとにまとめられてはいるらしい。


 しかし、引き当てたものが絵本とは程遠い挿絵すらない活字ばかりの本となると道のりは長そうだ。


 依然、棚を挟んだ向こう側にいる彼女たちからも吉報が聞こえてこない。


 未だ煮え切れない心の中で持っていた短時間で終わるかもという淡い期待は、いよいよ煮崩れを起こしてしまったようである。


 そこから続々と段ボールを文字通り切り開いていくが、辞典や何かの専門書やら全てかき混ぜたら鋼鉄が出来てしまうのではないだろうかと思うぐらいにはお堅い本が多い。


 やっと、最後のあたりで違うのが出てきたと思えば、自己啓発本が出てくる始末。これは堅いのか柔らかいのか。

 どうせかき混ぜても自分は何者にもなれないのだろう。


 そうやって、適当に処理していけば一つ残らずろくでもないもので、両脇にちょっとやそっと目を動かしたぐらいでは視界から外せないほど広がっていた棚一セット分消費してしまった。


 読んだわけでもないのに、気力をどっと持ってかれたような気がする。

 

 時計を見ればざっと1時間と半分くらいだろうか。適当にやっていたからかもしれないが、その時間で2棚片づけられるのなら中々良いぺースである。


 自己啓発本の表紙に紛れ込んでいた千里の道も一歩からという言葉を反芻してみて、早速3個目の棚に取り掛かる。千里とは一体どれくらいあるのだろうか。


 しかし、出てきたのは、ゼ〇シィなブライダル向け雑誌というまたもや重い一歩。


 純白のドレスに包まれ笑顔を浮かべる煌びやかな女性には目を引かれるが、こちらにとっては両方一生縁のない話なのでそのままキャッチアンドリリース。

 その後も似たような本がブルーギルみたく大量にあって、箱をわずかに開けて白が見えたら即リリース出来るぐらいには辟易していた。


 そして、残ったのはデジャブ感ある虚無感。


 クリスマスの日にSNSに載せられたカップルの写真を見た時の感傷にも似ている。      

 

 だが、結婚する人間はいない。ざまあみろと言いたいところだが、それはそれで寂しい。


 こちらにとって関係のない話には変わりがない。それなのに、変な感傷に浸ってしまうのは昔からの悪い癖だ。


 そんな純白の遺骸たちを段ボールへと戻していくと、今度は美味しそうな料理が載った本が目に映った。

 ウンザリするぐらいウェンディングドレスを見た後だと、結婚後の話も載っているのかと参ってしまうが、見出しを見る限りどうやら料理本らしい。


 何の料理かは分からないが、写真に写るそれは色鮮やかで和食か洋食かと問われれば断然洋食になるのだろう。


 たかだか、肉と野菜を混ぜただけでこれほどまでに鮮やかなものになるのだろうか。

 出来ることなら本ごと頬張りたい。これが飯テロというやつなのだろう。


 きっと、相当な腕前が無ければ作れるないのだろうとまじまじと見れば、見出しに

初心者でも出来る手抜き料理と書かれているのを見つけてまたビックリ仰天。


 こんなものが初心者に作れるわけないだろうと声を出してツッコミをいれたくなったが、興奮が収まって頭が冷えると何一人で盛り上がっているのだと白けた。


 そもそも、今こんな肉や野菜を目にすることが出来るのだろうか、パラパラとページをめくってみてもこの5年間見たことのないものばかりである。


 鹿や猪は腐るほど見たが、牛や豚や鶏は見たことが無い。どこかで野生化しているのだろうか。


 昔どこかで、人類がいなくなれば家畜は全滅するというのが耳にしたことがある。  そう考えてみると、犬も猫もまるで姿を見ていない。 


 「ん、スイーツも作れるのか……?」


 そんなことを考えながら、何気なくめくっていると黄金色に焼けたスイートポテトが目に映った。


 芋ならば腐るほどあるので手に届きそうな料理だが、これがどんな味なのかまるで分からない。


 「スイートっていうのだから、甘いのか――」


 そう言って天井を見ると、美味しそうにスイートポテトを頬張る月見里の姿が浮かんできた。


 だが、現実はきっと無常だ。頬張るどころか口に入れた瞬間吐き出して苦悶の表情を浮かべるのが関の山だろう。


 「ハァ、クソ、なんでこんな無駄なことを……」


 性懲りもなくいつの間にかまた下らない感傷をしている自分にますます辟易としてしまう。

 

 「おーい。2人ともこっちに来て!」


 無駄に吐いた溜め息もなんだか嫌気が差す中、中央にいるだろう東台の声を聞こえてきた。


 かなりの声量だったために『あれ』に襲われたのかと一瞬身構えるも、声音自体嬉しそうに跳ね上げているのでおそらくそうではないのだろう。


 月見里のランタンの光が大きくなって近づいているのが見えた。


 こちらも行った方がいいだろう。どうか、吉報であってほしい。



 「ほら、見て。ジャジャーン」


 手品を披露した時のマジシャンのようにそれへと手を広げる東台。


 しかし、あるのはびっくり箱のように散らかった段ボールと月見里の呆れた顔だった。

 

 「なに?片づけでも手伝ってほしいの?」


 「ううん、違うよ!……まぁ、最後にはしないといけないかもしれないけど」

  

 東台はそう言って後頭部に手を置いて苦笑いを浮かべる。


 デジャブというよりテンプレといった方が良いほど見てきた姿だがなかなかどうして様になっているのだろう。


 こちらとおそらく月見里のうんざりとした気持ちを知ってか知らずか、その仕草をすぐに終わらせて嬉しそうに手を叩くと、


 「ほらほら、この棚全部絵本だったよ」


 といって、近くにある段ボールから本を出してこちら側に見せつけた。見る限り、店の棚で見た絵本のようである。


 糸口が見つかったものの、それが数十数百は下らない段ボールと数千数万は下らない本だと嬉しい気持ちよりもウンザリする気持ちになってしまう。

 これだけの量を調べ上げないといけないのかと。


「少なくとも、場所が特定できただけ、まだマシか。無駄な作業がなくなるだけ、万々歳だな……」


 月見里がこちらの言葉に頷く。疲れ切った顔で頷いた。


 東台さえも状況を自覚したのか苦笑いを浮かべた。


 もはや、それ以上頭に考えさせる隙を与えないかのように、それ以上の言葉をまじ合わすことなくまた3人分かれて作業に取り掛かった。


 段ボールを開けていく。これだけなら作業は変わらないが、段ボールの中にある本を全て調べ上げないといけないのだからなかなかの重労働で時間がかかる。


 最初は東台が懐かしいと声をあげたりして、月見里にこれ見たことあるかどうか聞いていたりしていた。


 月見里がウンザリとした顔でYESNOを繰り返していたが、やがてNOのマシンガンが飛び続けて、塹壕とでもいうべき世代間の溝を乗り越えられなくなってくるとその声も止んだ。


 そして、また本をパラパラとめくったり床に落とす音と淡いオレンジ色がかった闇の中に還る。


 こちらはこちらで段ボールと地面に落ちていたものを一つ一つ丁寧に分けていたが段々とめんどくさくなって、途中からおもちゃ箱をひっくり返す要領で段ボールの中身を地面に散らばったものと混ぜて探すことにした。


 それでも、カラフルな色がウンザリするぐらい飛び散るだけで、その中に目的のものがない。

 

 もしかしたら、この中にもネコタチが無いのかもしれない。

 そんな不安だけが募るばかりで、まるで霞を掴もうとしているような気分だった。


 そもそものところ、ネコタチは一体どういう物語なのだろう。今見ているような日本昔話みたいな古臭いものでないことはなんとなく分かるが、表紙がどんなものなのかが分からない。


 もっとあの老紳士に聞いておくべきだと後悔するが、あの時の難しそうな表情を見ると結局何も変わらない気がする。


 溺れる者は藁をもつかむという辞書の言葉を思い出した。ならば、自分たちは今一人3時間コースで溺れっぱなしだ。


 東台や月見里達もこちらほどうんざりとした表情を浮かべてはいないが、疲労は確かに彼女たちの顔に刻み込まれている。

 それでも、黙々とやっていてサボる気配が無い。

 

 結局のところ、過剰なストレスはいい仕事の敵である。こんな世界だと尚更だ。

 

 もう休んでしまいたいが、東台さえ真剣な表情で作業をこなしているとその考えも引っ込んだ。

 

 「まぁ、こんなもの読む年齢でもないか」


 もう一つある自分の考えを独り小さく呟いてみる。


 そもそものところ、この中の誰も絵本を見るような歳ではない。昔は面白いと思っていたものが、今見ると気恥ずかしくなるあの現象を既に通っている。


 月見里も記憶を辿ってみると会った間もない頃に楽しそうに絵本を読んでいたことを目にしていたが、今それを手に掴んでいる彼女の表情に昔の名残はない。ライン工のごとく、乾いた目で左から右へと流していた。


 女の子の方が精神の成熟が早いと聞くが、きっと月見里も人並みに成長しているという証左なのだろう。

 そう考えると、何故だか感慨深いような寂しいような感傷めいたものを覚えてしまう。


 そうして、後ろ髪をひかれるには十分でかつ不相応な感情の波をやり過ごしながら、本探しは延々と続く。


 出来上がるのは、散らばった段ボールの山。

 震災後の倉庫のように散乱した段ボールだが、東台近辺はピラミッドのように積み重なっていて圧巻の一言に尽きる。もうピラミッドを建てた方がよっぽど有意義ではないだろうか。


 もう脳みそがまともな判断が出来ないくらいには疲れていた。


 しかし、悲しいかな、人間はただ穴を掘って埋める作業でさえ慣れてきてしまう。当然、3人の作業効率もその範疇から外れていない。


 出来ればもう二度と絵本を目にしたくないと思うぐらいには、かなりの冊数を3人で費やした。だけれども、見つからない。


 東台も集中力が切れたのか自分の肩を揉んだりして、「あー、疲れた」と声をあげていた。

 時計を見れば、もうそろそろ寝る場所を準備しなければならないぐらいには時間が過ぎていた。

 

 それでも、残っている段ボールだけでもまだまだ地平線を作っている。


 覚悟していたものの、一朝一夕でどうにかなるものでもないことを視覚的にも精神的にも見せつけられてしまえば、乾いた笑みの一つや2つ滲み出てしまう。


 仕方なく、本探しを一旦中断して、ドアに調査済みの棚を置いてバリケードを作り、テントを建てた。


 そうして、いよいよ晩飯を食べようかと思った時に、東台と月見里はいつの間にかテントの中に寝転がって静かな寝息を立てていた。


 可愛らしい少女の寝顔に何か文句を言えるはずもなく、ため息の代わりに欠伸をして、その日は終わった。


 

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