第70話 ”ヨルムンガンド”

「なっ……”ヨルムンガンド”だと!?」


 フラクロウから移動してきた者は、崖から身を乗り出して威嚇するアアスフィアを見て顔を歪めた。


「おい。一回目だから許しテやる。今すぐいなくなレ」

「わ、我らをお、脅す気、きか!? か、怪物の分際で!」

「あーハイハイ。死にテェならそう言っテよ。ネ、動くなよ」

「アアスフィア。今日はもう暴れつかれたでしょう」


 涼やかな声でハイシアは坂を駆け下りた。

 アアスフィアが目をたわめて尾をビタビタと海岸にたたきつける。

 

「ネーェ、こいつらひどい!」


 泣きついてくるアアスフィアをハイシアは受け止める。

 服が濡れ、小さな体がもみくちゃにされても頭を撫でる手は休めない。

 透徹な目が兵士たちを捕え、感情の乗らない笑みを浮かべた。


「我らの中には、あなた方に友好的でない者もいる。説明はなかったのですか?」

「し、知るものか。じ、女王陛下の命令だ! ふ、不穏部は、はは、排除するまで」

「お引き取りを。我らが民への危害はどのような形であれ許しません」


 セルーナのいる大テントへ逃げていく兵士たちを見送って、ハイシアはアアスフィアに向き直る。


「ごめんなさい、アアスフィア」

「ハイシア、前言ったことは覚えてるよね」

「ええ、そのことで、話があるのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る