第67話 過日1

「よそ見か? ハイシア!」


 ハイシアの目の前に水しぶきが上がる。


 腕で地面を蹴って飛び上がり、今しも集落を飲み込まんとしていた波を手のひらで浮かせて、戻す。次いで襲ってくる尾を裏拳で叩き戻して、集落の様子を伺う。

 「またか」と呆れた顔や怒鳴る顔は並ぶが、怯えた顔が見えないことに安堵する。

 ふと誰かが走り寄ってくるのが見えた。


 迫りくる牙を蹴って、体をひねる。


「おいハイシア! ファローが手紙を飛ばしちまった!」

「何の書類!」

「ライジュウへの断りの手紙だ!」

「まずいね!」

「呑気してる場合か!」


 尾の一撃を後ろに跳ぶことで躱し、地面に着地しつつキャメルの言葉に答える。こちらに振り落とされる水塊を平たく伸ばしてアアスフィアへと返す。咆哮に霧状になった海水を海へ戻しながらキャメルとの会話を続ける。


「母さんはなんて?」

「自分が対処する、だとよ」

「分かった。ファローへの処置だけこちらで考える」

「了解。一応偽装の書類だけ用意しとく」

「頼んだ」


 もう一度空中へ跳ねる寸前、アアスフィアの元へ走るリスの姿が見えた。

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