第61話 黄昏の肯定

 走って、息が切れて膝を折るころ。空は夕染めでひどく美しかった。

 冷たい汗を全身に貼り付けて空を見上げる。

 セルーナは丸い目を更に大きく見開いて、兄の言葉を反芻はんすうしていた。喉がカラカラに乾いていた。


「セルーナ」


 案じる声が兄のものでなかったことに落胆し、まだ期待していたのかと自嘲する。

 肩に置かれた手は温かだった。


「トワイライト……」

「その、何て言ったら良いのか分かんねぇよ。あんな……」

「いいんだ。精霊種のままじゃ夢を追いかけちゃいけないって正しいんだって」

「ハイシアが臆病なだけだ」

「ヤムもクラッカも同じ意見だって」

「だからってあんな一方的に言うこたないだろ」


 セルーナは涙に潤んだ目でトワイライトを見上げた。

 逆光になって表情は見えなくても、声の必死さはよく覚えている。


「お前の理想は綺麗だよ。俺感動した。そんなにまで考えてくれたのかって感動したんだ」

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