第59話 カフェ・スラブ1

 コーヒーに生クリームが注がれていく。

 手持無沙汰になったハイシアは、足元に散らばって積もっている砂を眺め、足で蹴った。ザリと、音が鳴る。

 セルーナがちらりとハイシアを見て、ビターチョコレートを削る。

 生クリームの上に飾りかけていく。


「みんな僕のこと、そこまで馬鹿だと思ってたのか」

「違う」

「じゃあ兄さんが?」


 チョコレートが塊になって割れ、カウンターに落ちた。

 セルーナの指が尖ったチョコを拾い上げ、ガラス片のようなそれを白い歯で挟む。


「あれで余計、僕は頑なになった。トワイライトの狙い通りにね」

「他者のせいにしてはいけないよ」

「事実としてトワイライトの計算はものすごかった。ミルキ、ファロー、アンモ、僕……途中まではフローセも口車に乗っかった」

「彼は良いところを誉めて、やる気を出させる術に長けていた。俺が怠ってしまった部分だよ」


 「反省している」とハイシアが静かな声で呟く。

 金の光に照らされた爪は5枚ともそろっており、健康的な桜色だ。


「誰しも優しい言葉が聞きたい。俺は、その辺りをセルーナに頼りすぎたね」

「今なら知っている」


 セルーナはしかめた眉を飾りつけの終わったカップに向ける。

 大ぶりなスプーンを布巾で拭く指はかすかに震えていた。

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