第55話 カロンの首

 夕映えの雲が厚く垂れ始めていた。

 イナゴの件でアアスフィアの機嫌が日増しに悪くなるのを、ハイシアが戦いの頻度を上げることでどうにかごまかしていた。

 その日も、熱く火照る体を引きずって、ハイシアは坂道を上っているところだった。


 坂道を登りながら息を吐く。胸の奥が軋むように痛んだ。

 うずくまって、脂汗をやり過ごす。徐々に痛みが、耐えられるところまで収まっていく。

 もう一度深く息を吐いて、前を向いた。


 視線の先に黒い染みがあった。

 疑問に動くこと叶わずじっと見つめていると、染みの数が見る間に増える。バタバタと傘を大雨が叩く音がする。

 染みは、黒い影になった。

 染み出すように範囲を広げたそれが、ドッと音を立てて落ちてくる。

 黒い羽、剣のように鋭い面差し。

 つい先日、女王の意思を伝えてきた使者、カロン・アヴィアント・ミストライズの変わり果てた姿が、何の因果か転がった。

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