第53話 テヤ4

 たしか「夢を叶えようと思うなら、生物種になったほうがお前のためだ」って言われた次の日くらいだよ。

 結界がほころんでいたのは僕のせいじゃないし、疑われて気分が悪かった。兄さんに「生物種になれ」って言われて、兄さんも僕を信じていないのかって、夢を叶えるには精霊種じゃなければ無理じゃないかって頑なになってた。

 気分が悪くてさ、雲も鈍色で海を押しつぶしてきそうに見えて、森の中に逃げ込んで膝を抱えてたんだ。

 そうしたら、声をかけられた。


「セルーナよぅい。おまさん、何がしたいのかしら? 兄への反発? 生物への慈愛? 全然ちげぇなぁクソヤロウ」


 「用がないなら帰ってくれない?」ってつっけんどんに言った。「それか兄さんの所にでも行くとか」って付け足したりしてさ。

 テヤは気分なんてちっとも悪くなっていませんって顔で、両手を肩の高さまで上げてお道化てた。


「おぅおぅマァ! ツレない方だわさ。ネェ、セルーナさまアタクシ協力してやるのもやぶさかじゃないぞ。一言だ。一言『兄を殺せ』と言いましたら見事! ――精霊種の首、上げてやるよ」


 すごいよね、テヤ。

 瞬きの間に姿見に映る人が変わるんだもん。

 僕はニヤニヤ笑うのやめてくれないかなって考えてた。

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