第51話 テヤ2
「セルーナが備蓄を盗んだことは知っている?」
「そりゃあもう。みんな噂で持ち切りだもの」
「足りない分の備蓄を埋め合わせることはできるかな」
「簡単。……けれどハイシア、お前は本当にそれを望むのかい?」
鏡面が怪しげな色に光る。
鏡面に幾人も幾人も、種族も性別もバラバラの人々がとぎれとぎれに映った。まずい、と考える。
「ナァ、ハイシアよぅ」
鏡に、革製の服をごつごつと着こんだ男が映る。薄汚れたターバンから虫が飛んだ。
「言うことを聞かない、大事な儀式をすっぽかす。……そぉんな困った弟を今すぐに始末できちゃうよ! 俺ならね」
本気だ、と思った。
本気でテヤはセルーナを殺すつもりでいる。
ハイシアは唾を飲み込んで、できる限り穏やかな声を出した。
「君の在り方は理解しているよ、テヤ」
両手を開いて、敵愾心がないことを示す。
表情はわずかな微笑みに固定する。
「その上でだけど、食料を買わせてくれるほうがありがたいかな」
「そ。なら何買う? そんなに多くはないよ」
「今日生物種のみんなが食べられる分だけでもいいんだ」
興味を削がれたと言いたげに声のトーンを上げたテヤにほっと息を吐きながら、ハイシアはにっこりと微笑んだ。
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