第50話 テヤ1

 ハイシアは顎に手を添えて、里の坂道を歩く。

 セルーナが備蓄を盗み出した話は瞬く間に里中に広がってしまった。

 生物種たちは目に見えて動揺し、自分たちはどれくらい耐えればいいのかと尋ねた。――生物種分の食料は十分だと言って落ち着かせた。

 精霊種たちはセルーナの処罰をどうするのかと尋ねた。――生物に落とせと暗に言われていることは分かっていた。

 物種たちは何の反応も示さなかった。もとより、彼らにとっての食事は物好きの嗜好品だと言う。――ファローだけは何か言いたげだったが。

 歩き歩いて、坂の上の茂みに覆われた雑木林に踏み入れる。そこには等間隔に離れてテントが張られていた。

 うち一つに足を進める。

 

「テヤ、今、ちょっといいかな」

「なぁにだい、ハイシア。ちょっと痩せたわね」


 煙のような影をくゆらせて、豪奢な鏡がハイシアを映す。

 鈍く反射する鏡面に移るハイシアは、なるほど、ひどく青ざめて見えた。

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