第49話 理解と納得は別だろう

 ビターチョコレートと生クリームを冷蔵庫から取り出し、セルーナは俯く。


「母さんが死んだときに、思ったんだ」

「うん」

「強くて僕よりずっと賢かった母さんですら死ぬんだって」

「だから不死を目指したのか?」


 洗い場に歩きながら、セルーナは首を振る。

 ボウルと泡だて器の水気を拭いて、重い唇を開く。


「こんな悲しみを、生物種は何度でも味わうのかと思った」

「セルーナ、それは……」

「分かってる。傲慢だ。――それでもね、兄さん。僕は、こんな痛みを味わう生物種なんていなくていいと思ったんだよ。誰もが同じ痛みを味わうのはひどいことだって、心の底から思ったんだ」


 ハイシアは答えない。答えられない。

 精霊種は見捨てる側だ。

 どれだけ憐れに思っても、世界の循環のために必要であれば肉親の死ですら動じない。

 セルーナは結局、どこまでも生物種に寄った精霊種だった。禁忌の研究に手を伸ばしてしまうほどに。

 

「蝗の一族を救えない理由はもう知っているね」

「納得は別だけどね」


 セルーナは肩をすくめる。


「納得はできないのか……」

「彼らの――一番下の子くらいには救いがあってもいいのに、とは思うよ。もちろん、思うだけ」

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