第44話 本はどこだ?

「……あの言い分は正しかったと思うけど」

「ああ。言い分も反応も、生物種に寄り添った素晴らしいものだった。――セルーナ。コーヒーを淹れてもらってもいいかな」


 セルーナは黙ってハイシアと自分のカップを持つ。

 ハイシアも黙って、セルーナが持ってきた泡だて器とボウルを持つ。


「せっかくだし、喫茶店でしか飲めないようなものを頼もう」

「えー、専門的な知識まではないよ?」

「休憩室に勉強用の本があるらしいんだ。カウンターに置いておいてくれるって言ってたけど、それっぽいものはない?」


 泡だて器を洗い場に置くハイシアを、カウンター横の扉からセルーナが腕を組んで眺める。

 兄の言葉通りなら、と考えたのだろう。自転車の運び込まれたカウンターを見る。

 器具のいくつかは砕け、砂の積もったカウンター。

 セルーナが使った器具だけが新品のように真新しかったカウンター。

 セルーナがカップの並ぶ棚に手を伸ばす。比較的砂の被害が少ないカップたちから、丁寧に砂を払う。

 厨房ではハイシアが泡だて器を洗っている。

 独り言のようなハイシアの声は無人の店内では聞こえやすい。

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