第39話 正義とは思うべきではなかった

「僕は、兄さんと僕が2つで1つだって忘れるべきではなかった」


 先を促すハイシアに、セルーナは首をかすかに傾げてさみしそうな笑みを浮かべた。ボウルと泡だて器がこすれ合って、金属質な音を立てる。


「アアスフィアの暴れっぷりに辟易していたけれど、僕も同じだった。嫌いだったみんなと僕とは、よく似ていた」


 アアスフィアは精霊の雛だった。

 フラクロウを殺すために生まれた精霊だが、信仰だけが足りなかった。彼は怪物だった。

 山の頂のように尖った背びれは嵐の海。果ての見えない巨体はイヌダシオンの集落を6回巻いてもおつりがくるほど。頭のてっぺんから尾の先まで硬く鋭い鱗に覆われた精霊種の雛。


 有翼人に虐げられた側を受け入れる代わりに、隔離しなくてはならなくなった。空に住むものを殺すために生まれた大災害。


「アアスフィアが暴れることが仕事だったみたいに、僕の仕事は生物種に寄り添った意見を出すことだった。僕は、それだけが正義だと考えた」


 二度目にフラクロウがやってきたとき、セルーナはフラクロウの側についた。

 ハイシアを見限っていたからだった。


「僕は、僕の理想を間違っていたとは思わない」


 ハイシアの小指がぴくりと動いた。

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