第32話 彼のやさしさ

 セルーナは、諦念の浮かぶ目でハイシアを見た。


「やり方が不味かったのは認めるよ。それでもさ、頭ごなしに否定されらいい気はしない」

「頭ごなしだったら、残るもんか」

「……兄さんの優しさは、分かりづらいね」


 沈んだ声でセルーナはコーヒーを飲む。

 辛気臭くなるくらいなら、最初から言わなけりゃいいのに。


「分かりづらい、かな」

「そうだよ。でなきゃファローはこっちに来なかった」


 痛いところを突かれたのだろう。

 ハイシアが喉の奥に言葉をつまらせる。


「兄さんがファローを庇ったんだって分かったの、ヴィダに来る辺りじゃないかな」


 きっと僕を死なせたときだ。

 そう、あっけらかんとセルーナは笑う。

 ハイシアは答えない。揺れる水面を両手で包みながら、黒沼の底に真実を探している。

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