第32話 ゴルフェートの死

 コーヒーを一口飲みながら、セルーナは顔を上げる。

 静謐な横顔は青白く、無表情のハイシアよりよほど人形らしかった。


「あれさぁ、痛かったよねぇ」

「ああ、滅茶苦茶痛かったよな」


* * *


 ハイシアは、儀式の申し送りをするために話している最中だった。

 セルーナは、拾ったネズミの子のために寝床を整えている最中だった。


 雷の、音がした。

 脳天から心臓を白い光に貫かれる幻覚が視界を回す。景色が一瞬発光し、青ざめた緑が色を染め上げた。意識が引き剝がされる苦痛に膝をついて倒れる。そうしてすべて真っ暗になった。


(そうか、俺は倒れたのか)

(かあ、さん)


 額に冷えた指が触れる。

 母の指だ。頬を包み、髪を辿り、耳に下げた飾りへ触れて手が離れていく。消え去る一瞬前、母は微笑んだ。


『我らの役目を果たしなさい』


 目が覚めると、2人ともが大テントに寝かされていた。

 自分たちを覗き込んでいたクラッカ先生に、ハイシアは淡々と「ゴルフェートが死にました」と伝え、セルーナは泣きじゃくった。

 ファローが手紙を飛ばした、その日のうちの出来事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る