第30話 ループのはじまりは

「兄さんだって協力約束してるじゃん」

「全面的に差し出すのとはワケが違うよ」

「全部開示したのはミルキだ、僕じゃない!」


 叫んでから、セルーナは顔を青くして俯いた。


「……いや、僕の監督責任だね。ごめん」

「誤らなくてもいいさ」


 セルーナがコーヒー粉を混ぜる音、自転車の駆動音に交じって、かすかな、ガラスにヒビの入るような音がする。

 ハイシアは寸暇すんか天井を見上げ、食い入るように見つめた。

 多分、気が付き始めている。


「……ゴルフェートが負けた原因はなんだと思う?」


 意外にも、それを口に出したのはハイシアだった。

 セルーナは難しい顔をして考え込み、しばらくしてから「まさか寿命?」と声を震わせる。

 ハイシアは否定することなく、カップの中の水面を見つめる。


「ループはヒメコマネズミが拾われるところからだろう? 母さんを助けることは不可能だ」

「……まあ、ね」

「試したのか?」

「イヌダシオンの滅びが覆せないか試してた頃に何度かね。未来からのメッセージって体でゴルフェートの死を伝えたりとか」


 結果は全滅。

 セルーナは「いやになっちゃうよね」と両腕を天井へ向けた。


「絶対にライジュウが母さんを撃つところには間に合わなかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る